更新:2007.10.17
物性化学I 担当 吉村一良
講義内容
 固体結晶が示 す様々な性質を、熱力学ないしは原子論的立場から講述する。主な内容は、固体結晶 の熱力学と平衡状態図論、結晶構造論と構造因子、結晶の不完全性(格子振動、格子 欠陥:点欠陥、ディスロケーション)、結晶中の原子の運動(拡散)、相転移熱力学 などである。
講義予定
1章.固体結晶の熱力学と平衡状態図論
1-1 平衡状態図論と平均場近似
1-2 ギッブスの相律 (Gibbs - Phase Rule)
他の物質界から独立し単独な領域として扱える物質の集合である系(System)に関して、熱平衡の条件式を相(Phase)、成分(Component)、温度(T)、圧力(P)の間に存在する関係式を、化学ポテンシャルの観点から自由度の形で導く。
1-3 相の平衡条件と自由エネルギー組成曲線
巨視的な性質を表す量である熱力学的変数で系(System)を記述する状態方程式について、各相(固相、液相、気相)熱平衡条件から導出し、相境界を自由エネルギー組成曲線を用いて決定する方法について述べる。
1-4 正則溶体近似
固体のGibbsの自由エネルギーを導く上で、混合のエントルピーを配置のエントロピーで、混合のエンタルピーをBragg-Williams近似によって表す正則溶体近似について説明しながら、凝縮相の自由エネルギーについて論述する。
1-5 液相-固相,固溶体:合金の熱力学
正則溶体近似を用いて、相平衡を議論し、平衡状態図求め、様々な系について具体に説明する。例えば、共晶系、共析系、包晶系、包析系、偏晶系、偏析系など
1-6 ブラッグ-ウィリアムズ(Bragg-Williams)近似の応用例
2章.固体の結晶構造と構造因子
2-1 固体の結晶構造と対称操作
結晶の基本格子としてのブラベー格子について説明し、結晶の対称性(並進対称性、回転対称性、反転対称性等)について論述する。
2-2 面指数(Miller指数)
2-3 結晶での散乱・回折現象
原子散乱因子を用いて、結晶構造因子を導出し、ラウエ条件・ブラッグ条件について説明する。また、逆格子の概念についても論述し、ミラー指数、面間隔などを導入し、結晶構造解析の基礎を説明する。
2-4 様々な結晶での結晶構造因子
単純立方格子、面心立方格子、体心立方格子、ダイヤモンド格子での結晶構造因子を求め、更にNaCl型、CsCl型、ZnS型などの規則合金・化合物型の結晶での結晶構造因子を求めて、消滅則の観点から議論する。

3章.格子欠陥
3-1 静的な格子欠陥
3-1-1 点欠陥
原子空孔(vacabcy)、置換型・侵入型の不純物原子と熱力学について。
3-1-2 転位(dislocation、一次元的格子欠陥)
線欠陥である転位(刃状転位、らせん転位)について説明し、結晶の変形(塑性力 学)について、転位のすべりベクトル(Burgarsベクトル)、すべり面、不動転位、 交差すべり、転位のジョグ、転位ループなどの観点から議論する。
3-1-3 積層欠陥(2次元的面欠陥)、結晶粒界・ボイド(3次元的欠陥)
3-2 動的な格子欠陥としての格子振動
3-2-1固体中の弾性波としての格子振動
3-2-2固体中の素励起としての格子振動(フォノン)
格子振動を初めて量子論的にあつかったアインシュタインモデルとその修正モデルで あるデバイモデルについて説明し、固体の比熱についてフォノンによって議論する。

4章.拡散(固体中の原子の運動)v 4-1 Fickの第一法則
4-2 自己拡散、相互拡散
4-3 Fickの第二法則と俣野の補正式
4-4 真の拡散係数の求め方

5章.相転移熱力学
5-1 結晶変態としての相転移
5-1-1 規則・不規則転移

Bragg-Williams近似(正則溶体近似)を用い、平均場近似の立場から合金や化合物に おける規則・不規則転移(変態)について説明する。
5-1-2 相分離 (Phase Separation)
1章で 説明したBragg-Williams近似(正則溶体近似)を用いて、相転移としての相分離現象について説明する。
5-2 電子状態の相転移
5-2-1 強磁性体のイジングモデル
磁性体の相転移である強磁性転移について、Bragg-Williams近似を用いたモデルについて説明する。
5-2-2 強磁性体の統計力学:キュリーワイス則と平均場近似(ワイスの分子場モデル)
磁性体におけるランジュバンモデル、デバイ・ブリルアンモデルに基づきワイスの分子場近似モデルを説明して、平均場の考え方について論述する。
5-3 相転移の現象論:ランダウ(Landau)理論
相転移の基本的な現象論であるランダウ展開(オーダーパラメータの展開)の理論について、超伝導を例にとって簡単に説明する。
成績評価の方法
期末試験と出席の総合評価
教科書
 
参考書
化学領域
中西・板東編「無機ファイン材料の化学」三共出版、キッテル「固体物理学入門」丸 善(原著: C.Kittel 「Introduction to Solid State Physics」Wiley)、小菅皓二 「不定比化合物の化学」培風館、太田恵造「磁気工学の基礎1」共立全書、 P.Gordon著平野・根本訳「平衡状態図の基礎」丸善、B.ヘンダーソン「丸善の固体物 性シリーズ1.格子欠陥」丸善、P.J.ブラウン「丸善の固体物性シリーズ2.結晶構造」 丸善、C.クラングル「丸善の固体物性シリーズ6.磁気的性質」丸善、近角聰信「強磁 性体の物理(上)」裳華房、スタンリー「相転移と臨界現象」東京図書、中野藤生・ 木村初男「相転移の統計熱力学」朝倉、J.Weertman・J.R.Weertman著中村訳「基礎転 位論」丸善、カリティ「X線回折要論」アグネ、加藤範夫「回折と散乱」朝倉、ハリ ソン「固体論」丸善、青木昌治「応用物性論」朝倉、宮原監修「アグネ現代金属物理 シリーズ1「金属結晶の物理」アグネ、P.A.Cox 「固体の電子構造と化学」技報堂、 岩波講座現代物理学の基礎「物性1、2」
その他
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