[論文の概要] 食用の光合成微生物 Arthrospira platensis (スピルリナ)はシアノバクテリアの一種で、栄養価が優れているうえに大量培養が簡単にできるため、食品・飼料や食品添加物の原料として世界中で利用されています。この微生物は世界のいろいろな場所から採取されて、産地の異なるいろいろな系統の株が保存されています。通常、いろいろな系統の微生物を遺伝的に安定に保存するには凍結保存が行われます。しかし、この微生物の場合、細胞を凍らせたあと融かすと死滅してしまうため、凍結保存ができないと言われていました。そのため、通常は植え継ぎによる系統保存が行われてきました。しかし、植え継ぎによる系統保存を続けると、長い間に突然変異が蓄積して有用な形質が失われてしまう可能性があります。そこで、この論文の研究では、凍結傷害の防護剤や凍結の際の冷却方法をさまざまに変えて凍結保存を試みました。その結果、A. platensis を効率よく凍結保存できる条件が見つかり、多くの株を凍結保存できるようになりました。研究の過程で、この微生物は系統によって最適な凍結保存条件が大きく異なっていることがわかり、系統ごとにいくつか異なる条件を用いて凍結しないといけないことも判明しました。この研究の結果、A. platensis のさまざまな系統の株を、凍結して遺伝的に安定な状態で保存し、必要な時に融かして生き返らせて利用できるようになりました。

Shiraishi, H.(2016). Cryopreservation of the edible alkalophilic cyanobacterium Arthrospira platensis. Biosci. Biotechnol. Biochem. 80, 2051-2057.