[論文の概要] 食用藍藻 Arthrospira platensis (スピルリナ)は栄養価が優れているうえに大量培養が簡単にできるため、食品・飼料や食品添加物の原料として世界中で利用されています。また、国連の食糧農業機関が培養を推奨しており、世界各地で小規模な農業にも利用されています。
 光合成を行って増殖する生物はホウ素を必要とするものが多いため、A. platensis でも、培養に使われる合成培地(無機培地)には伝統的にホウ酸が添加されてきました。しかし、A. platensis の増殖には、ホウ素は必要ではない可能性があります。そこでこの研究では、ホウ素を含まない培養液を作成して、ホウ素の有無がこの生物にどのような影響を及ぼすかを調べました。実験の結果、A. platensis の増殖には、わずかな量のホウ素も必要無いことが確認されました。また、ホウ素無しで A. platensis を培養した場合でも、バイオマス量や種々の生化学的な性質には有意な差が生じず、A. platensis の培養にはホウ素が必要ないことが初めて明確になりました。
 世界には、土壌中のホウ素が欠乏しているために通常の農作物の生産には向かない土地が各所にあります。本研究の結果、そのような土地でも自然水を利用してホウ素の添加を必要とせずに A. platensis の培養を行えることが明らかになりました。これは、この微細藻を作物として利用する際に有用な知見となります。
 また、ホウ酸はマンガンイオンと反応してホウ酸マンガンの不溶性の沈殿を生じます。この沈殿形成によって、培養液の中のマンガン濃度は徐々に低下していきます。マンガンは細胞内のいろいろな酵素の活性中心となっているため、そのようなことが起こると生理的な実験の再現性が低下することになります。本論文の研究で、ホウ酸無しで A. platensis を培養できることが明確になったため、ホウ酸を入れない培養液を実験に使用することで、今後、生理的な実験の再現性も向上させられるものと期待されます。

Tadama, S. and Shiraishi, H. (2017). Growth of the edible microalga Arthrospira platensis in relation to boron supply. Int. J. GEOMATE, 12 (No. 30, Special Issue on Science, Engineering & Environment), 90-95.