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ヘキサフィリンのメゾ位におけるオキソ化

環拡張ポルフィリンの巨大なπ電子系はラジカルといった不安定化学種の安定化に絶大な力を発揮する。我々はメゾ位が無置換のヘキサフィリンを合成する過程で、一つのメゾ位が空気によりオキソ化された化合物を得た。驚くことにこの化合物はラジカル種であるにも関わらず、空気中で安定に存在することが分かった。これはヘキサフィリンの巨大なπ電子系にスピンが非局在化されることで安定化されたためだと考えられる。

T. Koide, G. Kashiwazaki, M. Suzuki, K. Furukawa, M.-C. Yoon, S. Cho, D. Kim, A. Osuka, Angew. Chem. Int. Ed., 2008, 47, 9661-9665.


また、得られた知見を活かしてジオキソ体の合成にも成功した。この分子は非ケクレ型の一重項ビラジカル種として、モノオキソ化体と同様に安定に存在することが分かった。


T. Koide, K. Furukawa, H. Shinokubo, J.-Y. Shin, K. S. Kim, D. Kim, A. Osuka, J. Am. Chem. Soc., 2010, 132, 7246-7247.


内部架橋された環拡張ポルフィリン

環拡張ポルフィリンの大きく柔軟なπ共役系は分子内部に新たなπスペーサーによる架橋を導入することを可能にする。我々はヘキサフィリンの2つのメゾ位がアルケンで架橋された化合物を合成することに成功した。一般的に1つの分子内に複数のπ共役系を描くことができる化合物はアヌレノアヌレンと呼ばれ、本化合物は26π芳香族と16π反芳香族の2つの共役系から成るアヌレノアヌレンと捉えることが可能である。


M. Suzuki, A. Osuka, J. Am. Chem. Soc., 2007, 129, 464-465.


しかしながら、先に述べたビニレン架橋ヘキサフィリンにおいては16π反芳香族共役系の寄与はほとんどなく、2つの共役系の寄与が共に存在する系は依然として困難であった。そこで我々は新たにπスペーサーとしてベンゼン、チオフェン、ピロールを導入した化合物をそれぞれ合成した。ベンゼンで架橋された場合はスペーサー上を通る共役の寄与は小さく、[26]ヘキサフィリンとしての物性を示した一方で、ピロールを用いた場合には強固な分子内水素結合により[18]ポルフィリンの寄与が大きい結果となった。興味深いことにチオフェンを用いた際には、[26]ヘキサフィリンと[18]ポルフィリンの2つの足し合わせのような吸収スペクトルが得られ、このことからこの分子においては真のアヌレノアヌレン性が発現したと考えられる。


H. Mori, J. M. Lim, D. Kim, A. Osuka, Angew. Chem. Int. Ed., 2013, 52, 12997-13001.


縮環環拡張ポルフィリン

ポルフィリンに他の芳香族π電子系が縮環した化合物は、従来のポルフィリンとは全く異なる物性を示し、機能性材料への応用が強く期待されている(参照)。しかしながら、一般的に多くの環拡張ポルフィリンはポルフィリンと比較して電子豊富なため、縮環ポルフィリン合成に広く用いられる酸化的縮環条件下では分解することが知られている。我々は比較的電子不足な[26]ヘキサフィリン金二核錯体が従来の酸化的縮環に耐え、メゾ位のアンスリル基と良好な収率で縮環することを見出した。


K. Naoda, H. Mori, N. Aratani, B. S. Lee, D. Kim, A. Osuka, Angew. Chem. Int. Ed., 2012, 51, 9856-9859.

また、これ以外にも我々はポルフィリンとヘキサフィリンの縮環体(通称:ハイブリッドテープ)の合成も達成している(参照)。