環拡張ポルフィリンはそのピロールユニットの数に応じて、5つではペンタフィリン、6つではヘキサフィリン、7つではヘプタフィリンというように「数を表す語 + フィリン」という名で呼ばれる。また、それぞれの名前の先頭にある括弧内の数字は共役系に含まれるπ電子の数を示している。当研究室では従来のポルフィリン合成法において、原料のアルデヒドとして電子求引性のペンタフルオロベンズアルデヒドなどを用い、基質濃度を高くすることで、一連の環拡張ポルフィリンをワンポットで合成することに成功した。
J.-Y. Shin, H. Furuta, K. Yoza, S. Igarashi, A. Osuka, J. Am. Chem. Soc., 2001, 123, 7190-7191.
ワンポット合成法は一連の環拡張ポルフィリンを一挙に合成できる点で優れている反面、分離に手間がかかるという難点も含んでいる。この問題は反応原料の工夫によって克服することができた。すなわち、原料としてピロールの代わりにジピロメタンを用いることで偶数個のピロール環を有する環拡張ポルフィリンを選択的に合成することができる。同様に、原料としてピロール3つからなるトリピランを用いた場合には、3の倍数個のピロール環を有する環拡張ポルフィリンを合成することが可能である。
ピロールユニット4つからなるポルフィリンはほぼ正方形の剛直な平面構造をしているが、環拡張ポルフィリンは骨格が柔軟で様々な構造をとることが可能である。たとえばピロールユニットを6つもつヘキサフィリンでは、メゾ位やベータ位の置換基・酸化数・溶媒の変化・酸の添加などによって、長方形型、ダンベル型、8の字型、三角形型といった4つの異なる構造を取ることができる。
環拡張ポルフィリンはπ共役が大きく広がっているために、酸化還元反応によってピロール環がイミン型とアミン型との間で変化することで様々な酸化還元状態を取ることができる。これによりπ電子数を変化させることで異なる構造や性質を引き出すことが可能である。こういった他に類を見ない性質は、環拡張ポルフィリンの大いなる可能性の出発点となっている。