ホーム > 研究紹介

分子骨格の柔軟性を鍵とした動的π共役系の機能発現(齊藤グループ)




個人ホームページ:http://shohei-saito.webnode.jp

π 共役分子は一般に剛直な芳香環や多重結合(おもにsp2 炭素)から構成されるため、必然的に剛直な構造をもつものが圧倒的に多い。このため、π 共役分子は狙った形のものを作りやすく物性面でも多くの強みをもつ。しかし,基本となる分子骨格が剛直であるということは無機材料に似て、構造の柔軟性に由来する物性の変換は難しく、静的な物性の発現に留まっていると考えることもできる。我々は「π 共役骨格を動かす」という視点に基づき剛直性の利点を活かしつつ柔軟性を兼ね備えた一連のハイブリッドπ 共役分子を生み出し、これをFLAP(Flexible Aromatic Photofunctional systems)と名付けた。




このFLAP分子は周囲の環境に応じて異なる動的挙動を示すため、単一分子でありながらも薄膜・溶液・結晶中でそれぞれ青・緑・赤色の三原色発光を示すことが分かった。我々はここで得られた知見を活かし、接着剤にFLAP分子を分散させることで接着剤のリアルタイムな硬化過程を観測することに成功している。また、近年ではFLAP分子の光励起による構造変化に着目することで、光で剥がせる接着剤の開発にも成功している。


C. Yuan, S. Saito, C. Camacho, S. Irle, I. Hisaki, S. Yamaguchi, J. Am. Chem. Soc., 2013, 135, 8842-8845.

C. Yuan, S. Saito, C. Camacho, T. Kowalczyk, S. Irle, S. Yamaguchi, Chem. Eur. J., 2014, 20, 2193-220.


R. Kotani, H. Sotome, H. Okajima, S. Yokoyama, Y. Nakaike, A. Kashiwagi, C. Mori, Y. Nakada, S. Yamaguchi, A. Osuka, A. Sakamoto, H. Miyasaka, and S. Saito, J. Mater. Chem. C, 2017, 5, 5248-5256.


R. Kimura, H. Kuramochi, P. Liu, T. Yamakado, A. Osuka, T. Tahara, and S. Saito, Angew. Chem. Int. Ed. , 2020, 59, 16430-16435.


R. Kimura, H. Kitakado, A. Osuka, and S. Saito, Bull. Chem. Soc. Jpn., 2020, 93, 1102-1106.


S. Saito, S. Nobusue, E. Tsuzaka, C. Yuan, C. Mori, M. Hara, T. Seki, C. Camacho, S. Irle, S. Yamaguchi, Nat. Commun., 2016, 7, 12094.




ヘテロナノグラフェン系化合物の合成と機能開拓(旧田中グループ)

個人ホームページ:Dr. Takayuki Tanaka's personal HP


グラフェンの部分構造を精確に切り出したナノグラフェン分子は、その構造物性相関の解明が行われているのみならず、合成法を改良してヘテロ元素をドープしたり、ベンゼン環以外の環構造を組み込むことができる。そのようなヘテロナノグラフェン分子の中で、ヘテロ[8]サーキュレンと呼ばれる化合物群はその高い対称性と平面構造ゆえに美しい分子構造・集合構造を有し、ヘテロ[8]サーキュレンに基づく新規機能の発現が期待される。我々は2015年にテトラベンゾテトラアザ[8]サーキュレンという分子を世界で初めて合成し、その集合体や電子状態の解明を行ってきた。また、構造を改変して平面・擬平面・非平面(曲面)構造を作り分けたり、その光物性の変化を明らかにしてきた。また、テトラアザ[8]サーキュレンは一電子酸化により非常に安定なラジカルカチオンを与えることから、これらの化合物は電子材料・光学材料・磁性材料等への幅広い展開が可能である。


こうした分子群の合成法として、我々は新たにfold-in法という戦略を見出した。従来のナノグラフェン合成では、酸化反応によって分子の外側の炭素ー炭素結合を形成する方法が一般的だが、fold-in法ではあらかじめ外周部の骨格を形成し、酸化反応によって内側の炭素ー炭素結合を形成する。この方法は、柔軟な構造を有する環状化合物に対してうまく作用し、アザ[8]サーキュレンやアザヘリセンといった通常の方法では合成が難しい化合物群を得ることに成功した。また、アザ[8]サーキュレンは平面化合物で立体被覆がないにもかかわらず、溶媒に用いた水素結合受容性溶媒との相互作用のおかげで分子が凝集しないという性質があることもわかった。このような性質は、従来のナノグラフェン化合物が立体被覆を必要とし、ハロゲン系溶媒にしか溶解しないこととは対象的であり、我々の化合物に特徴的な性質である。このようなユニークな性質を示すヘテロナノグラフェン化合物の研究を展開している。


F. Chen, Y. Hong, S. Shimizu, D. Kim, T. Tanaka, A. Osuka, Angew. Chem. Int. Ed. , 2015, 54, 10639.

超ポルフィリンの化学(旧大須賀グループ)


画像をクリックでそれぞれの研究紹介ページへ