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環縮小によって生み出された大きな置換基効果

サブポルフィリンは環縮小により、メゾ位におけるβ水素の立体障害が小さくなっている。これはサブポルフィリンとメゾ位のアリール基が成す二面角が60°程度と、β水素の立体反発により環に対してほぼ直交しているポルフィリンとは対照的である。この小さな二面角はメゾ位の置換基との共役をより有効なものとし、その結果サブポルフィリンはメゾ位の置換基によって大きな摂動を受ける。ポルフィリンの場合、メゾアリール基を工夫しても大きな物性の変化は期待できないが、サブポルフィリンの場合には大幅な物性の変化が期待できるのである。

これに関連して、メゾ位に置換したアリール基の回転障壁が他のポルフィリン類縁体と比べて大きく低下していることがサブポルフィリンの特徴である。例えばメゾ位に置換したフェニル基は、ポルフィリンの場合 25 °Cにおいても回転はNMRのタイムスケールにおいて凍結している一方で、サブポルフィリンの場合 -90 °Cにおいても自由回転できることが分かっている。

Y. Inokuma, A. Osuka et al., J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 4747.

このような大きな置換基効果が如実に観測された例がメゾ位に4-ジベンジルアミノフェニル基を置換したである。置換したアミノ基の数に応じて吸収スペクトルにおいてSoret帯の分裂など大きな摂動が観測される。またメゾ-フェニルサブポルフィリンが緑色蛍光を示すのに対して4-ジベンジルアミノフェニル基の数に応じて黄〜赤色蛍光を示し、蛍光量子収率の大幅な上昇が観測された。

Y. Inokuma, A. Osuka et al., J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 12234.

置換基の容易な回転に由来した興味深い物性も近年発見されている。メゾ位にアリールアミノ基を有するサブポルフィリンは、アリール基がフェニル基の場合鮮やかな橙色蛍光を示す。しかし、アリール基上に電子供与基または電子求引基が置換した場合にはその蛍光が完全に消光する。これは、励起状態における置換基の回転により誘起される分子内電荷移動(Twisted-Intramolecular-Charge-Transfer: TICT)により引き起こされていることが過渡吸収測定や電気化学測定によって明らかとなった。ここで興味深いのは、サブポルフィリンはその置換基に合わせてTICTの電子供与体・電子受容体のどちらにもなり得ることである。

W.-Y. Cha, M. Kitano, A. Osuka, D. Kim et al., Chem. Commun., 2014, 50, 8491.

周辺修飾反応の開発(メゾトリアリールサブポルフィリン)

メゾ-トリアリールサブポルフィリンに芳香族求電子置換反応を行うことにより、ニトロ基やブロモ基といった官能基を周辺部に導入することができる。導入した官能基を足がかりに、様々な置換基をβ位に有するサブポルフィリンが合成されてきた。

E. Tsurumaki, A. Osuka et al., Chem. Eur. J., 2008, 15, 237; Chem. Asian J., 2013, 8, 3042.
K. Yoshida, A. Osuka, Chem. Asian J., 2015, 10, 1526; Chem. Eur. J., 2015, 21, 11727;
Chem. Eur. J., 2016, 22, 9396.

周辺修飾反応の開発(メゾフリーサブポルフィリン)

さらにメゾフリーサブポルフィリンの合成が可能となって以降は、ポルフィリンで得られていた様々な周辺修飾反応の知見を用いてサブポルフィリンの周辺修飾反応が開発された。

M. Kitano, A. Osuka et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 5593; Chem. Eur. J. 2012, 18, 8929;
Chem. Eur. J. 2013, 19, 16523; Angew. Chem. Int. Ed., 2015, 54, 9275.

D. Shimizu, A. Osuka et al., Chem. Eur. J. 2014, 20, 16194; Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 6613;
Chem. Asian. J., 2016, 11, 2946.

また、近年では芳香族求核置換(SNAr)反応によって様々なヘテロ元素置換基を容易にメゾおよびβ位へ選択的に導入できることも明らかとなり、その合成の幅はさらに広がりを見せている。

縮環サブポルフィリンの開発

当研究室ではポルフィリンのメゾ位とβ位を三重に縮環することによって高い平面性と有効な共役に由来した物性を示すポルフィリンテープを開発している(詳細)。一方で、曲面構造を有するサブポルフィリンを縮環させることは当初困難であると考えられていた。さらにサブポルフィリンはFeCl3やDDQ/Sc(OTf)3のような強い酸化条件で分解してしまうため、ポルフィリンで汎用される酸化的縮環には向いていない。そのため全く新しい縮環の構築法を開発する必要があった。そこで、Ni(cod)2を用いた還元的二量化反応を鍵反応として用いることによりメゾ位とβ位を直接縮環させた二量体の合成が達成された。サブポルフィリンはお椀の向きによって、π平面の表裏が区別される共役系を有するため、その縮環体にはsynantiという2つの異性体が考えられるが、この反応ではanti体のみが選択的に得られている。これは反応が2つの異性体が存在する中間体の一方に対して特異的に進行していることを示唆している。

Y. Okuda, A. Osuka et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 9212.