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トリベンゾサブポルフィリンの合成

世界で初めて合成されたサブポルフィリンは3つのβ位にベンゼン環が縮環したトリベンゾサブポルフィリンである。たった1.4%収率の報告からサブポルフィリンの化学が花開くきっかけとなった金字塔的な合成である。当然、99%の副生成物(と原料)を含む反応混合物から1%のサブポルフィリンを分離・精製することは困難であったが、サブポルフィリンが発する美しい緑色蛍光をたよりにこれを達成した。もしサブポルフィリンが蛍光を発しない化合物であったなら今日に至るサブポルフィリン化学は生まれていなかったかもしれない。

サブポルフィリンの構造やアキシアル位の反応性などの基本的性質が明らかとなった。その一方で種々の検討の結果、トリベンゾサブポルフィリンのメゾ位は求電子的な臭素化反応などに対して反応性を示さず、周辺修飾の化学は以下に続くメゾアリールサブポルフィリンの合成を待つことになる。

Y. Inokuma, A. Osuka et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 961.

A3型サブポルフィリンの合成

ホウ素をテンプレートとすることによって合成できることが分かったため、 あらかじめ3つのピロールがホウ素に配位したトリピロリルボラン-ピリジン錯体を前駆体として用いることで様々なメゾアリールサブポルフィリンが合成できることを見出した。またほぼ同時期に小林らもトリピロリルボランを用いたサブポルフィリン合成法を報告している。

Y. Inokuma, A. Osuka et al., J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 4747.
N. Kobayashi et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 758.

A2BおよびABC型サブポルフィリンの合成

トリピロリルボラン類を用いたサブポルフィリン合成では、導入できるメゾ位の置換基は1種類のみに限られていた。原理的には複数のアルデヒドを絶妙な割合で加えることによって統計的に複数種類の置換基を有するサブポルフィリンを合成できるが、その場合は様々な置換サブポルフィリンが同時に生成してしまうため効率が悪い。

そこで、トリピランと呼ばれる3つのピロールが2つの炭素によって架橋された前駆体を用いる方法が開発された。具体的にはトリピランのホウ素錯体に任意のアリール基を有する酸クロリドで処理することにより、1つの置換基のみが異なる様々なA2B型サブポルフィリンが合成できる。

T. Tanaka, A. Osuka et al., Org. Lett. 2012, 14, 2694.

さらに近年2つの異なるアリール基を有するトリピランを用いることで、3つのメゾ位の置換基が全て異なるABC型サブポルフィリンの合成も達成された。ABC型サブポルフィリンはお椀型構造によって環の上下が区別されるため、キラリティを有する。実際にその光学分割に成功し、サブポルフィリンのキラリティに由来する円偏光二色性スペクトルが観測された。

K. Yoshida, T. Mori, A. Osuka et al., Eur. J. Org. Chem. 2014, 3997.

メゾフリーサブポルフィリンの合成

A2B型の合成法を改良し、酸クロリド等価体としてオルトギ酸トリメチルを用いることで1つのメゾ位が水素で置換されたメゾフリーサブポルフィリンが合成できる。得られたメゾフリーサブポルフィリンはNBSやNCSで処理することにより、メゾハロサブポルフィリンへと容易に誘導することができる。これにより、遷移金属触媒反応を始めとした様々な周辺修飾が可能となった。

M. Kitano, A. Osuka et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 5593.
D. Shimizu, A. Osuka et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 55, 6613.