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京都大学 大学院理学研究科 化学専攻 有機合成化学研究室
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研究内容/キラル相間移動触媒

環境調和型有機合成化学の確立
現代の有機化学では、極めて多くの研究者によって金属元素が縦横無尽に取り扱われている。アルキルリチウムやGrignard反応剤等、高反応性の有機金属反応剤に始まり、遷移金属化合物、各種金属錯体、金属クラスタ-など現代有機化学の分野に深く浸透している。しかしながら、金属元素は採取時の環境汚染に加え、貴金属の高コスト性や金属本来の有毒性、有害性による使用後の環境汚染など環境保全の立場から問題となるものも多い。本研究室では今後、地球環境に優しいクリ-ンな有機合成化学という観点から金属を使わない有機分子触媒のデザインにも積極的に取り組んでいる。その一例として挙げられるのが、テトラアルキルアンモニウムやホスホニウム塩由来の相間移動触媒であろう。相間移動触媒の反応性、選択性評価のため、以下のようなキラル相間移動触媒を作り上げ、望ましい環境調和型非金属触媒の創製と実用的アミノ酸合成プロセスの確立に成功している。従来のキラル相間移動触媒は、すべてシンコナアルカロイド由来のものであるだけに、高触媒活性、C対称軸を有し触媒設計の微調整(fine tuning)が可能な本触媒の将来性に幾多の特許化やアルドリッチ、和光純薬からの試薬販売化が行なわれている。




光学活性α-モノアルキルアミノ酸の合成

β-ナフチル置換型のキラル相間移動触媒(R,R)-1aを1モル%用いてグリシン誘導体の不斉ベンジル化反応を相間移動条件下で行うと、わずか30分後には収率95%、光学収率96%で天然型のフェニルアラニン誘導体が得られる。さらに3,4,5-トリフルオロフェニル基を導入したキラル相間移動触媒、(R,R)-1bは、グリシン誘導体の不斉アルキル化反応において高い一般性を有することがわかり、わずか1モル%の触媒存在下、通常の相間移動反応条件下でほとんどの場合、99% eeという極めて高いエナンチオ選択性が認められた。本研究で編み出したスピロ型のキラル相間移動触媒(R,R)-1(S,S)-1のいずれかを用いることで、天然型、非天然型アミノ酸も含め、各種のアミノ酸誘導体やそれらの関連体(アミノアルデヒド、アミノケトンやアミノアルコールなど)の不斉合成が可能となる。例えば、生理活性アミノ酸としてパーキンソン病の治療薬、L-ドーパ、抗生物質、L-アザチロシン、ACE阻害剤などが実用的レベルで容易に合成できる。


光学活性α,α-ジアルキルアミノ酸の合成

光学活性α,α-ジアルキルアミノ酸は天然に存在しないものの、ペプチドの修飾や酵素の阻害剤あるいは不斉合成における有用なキラル素子として高い潜在需要を持っている。従来は、光学活性α-モノアルキルアミノ酸から化学量論的にα,α-ジアルキルアミノ酸へと変換されていた。一方、より効率的な触媒法の開発も試みられたが、実用性の点からはほど遠いものがあった。こういった状況で、私どもの研究室では最も直截的な光学活性α,α-ジアルキルアミノ酸の触媒的不斉合成プロセスの確立に取り組んだ。すなわち、グリシンから出発して、グリシンエステルのアルデヒドイミンに変換し、それをキラル相間移動触媒(S,S)-1bを用いた相間移動条件下、二種の異なるアルキルハライドを加えて同一容器内で連続的に不斉二重アルキル化反応を行なうものである。得られたジアルキル化体は酸処理によって、容易に光学活性α,α-ジアルキルアミノ酸へと導ける。この手法の利点は、同じ触媒を用いても、二種の異なるアルキルハライドの加える順序を入れ替えれば、両方のエナンチオマーが合成できることである。また、アラニンやバリン等のα-アルキルアミノ酸の不斉モノアルキル化によっても、高選択的に光学活性α,α-ジアルキルアミノ酸が得られる。


直截的な不斉アルドール合成

グリシンエステルとアルデヒドとのアルドール反応によって生成するβ-ヒドロキシ-α-アミノ酸は、生理活性ペプチドの重要なキラルユニットとして、また、不斉合成におけるキラル素子としても有用である。従来、こういったβ-ヒドロキシ-α-アミノ酸は、酵素、L-トレオニンアルドラーゼを用いて極微量合成されており、実用的見地からはほど遠いものであった。しかしながら、スピロ型キラル相間移動触媒(R,R)-1c1dを2モル%存在下、トルエン/1%水酸化ナトリウム水溶液の二層系でグリシンエステルのシッフ塩基とアルデヒドを直接、混合させることにより、アルドール反応が円滑に進行してβ-ヒドロキシ-α-アミノ酸エステルが高収率で生成した。その際、主生成物であるエリトロ異性体が高エナンチオ選択的に得られる。


キラル相間移動触媒の単純化

二種類のビナフチル基から成るスピロ型キラル相間移動触媒だけでなく、片側のビナフチル基を単純なアルキル鎖に置換した触媒(S)-2においても、グリシン誘導体の不斉アルキル化がほぼ完全な選択性で進行することが見出された。この際、有機分子触媒としては極めて少ないといえる、わずか0.01モル%の触媒量でも反応は円滑に進行し、高い不斉収率を示した。


ヘテロキラル相間移動触媒の創製と不斉エポキシ化反応

ヘテロキラルな光学活性相間移動触媒(S,S)-3を有機分子触媒として用いることで、α,β-不飽和ケトンの不斉エポキシ化反応が高収率、高立体選択的に進行する。


光学活性アンモニウムビフルオリド触媒による不斉マイケル付加反応

光学活性アンモニウムビフルオリド(R,R)-4を有機分子触媒として用いることで、シリルニトロナートの不飽和アルデヒドへの不斉マイケル付加反応が高立体選択的に進行する。