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化学シフト相互作用とは?


 . 遮蔽効果(shielding)

  NMR法で観測される相互作用の一種で、核を取り巻く電子による外部磁場の遮蔽効果のことです。遮蔽効果を古典的に説明すれば、磁場中の電子が核の周りを回転運動して外部磁場と反対方向に小さな磁場(外部磁場の10-6程度(ppm)の大きさ)を作り出すことによって、核は外部磁場よりわずかに遮蔽された磁場を感じる効果といえます。


遮蔽効果: 外部磁場(B) → 電子の回転運動 → 電子による小さな磁場(−σ×B) 
    → 核が実際に感じる磁場B=B(1−σ) 
                   σはppm程度の大きさ 
 
  この遮蔽効果は観測核が置かれている化学的環境により異なります。そのため溶液NMR法やMAS法による固体高分解能NMR法では(つまり、普通の測定という意味)、観測核が置かれている化学的環境の違いを化学シフト値から知ることができます。例えば、未知の試料を1HをNMR測定して、CH3一つOHが一つあるのでこの未知試料はメタノールであるだろう、といった分子組成が分かります。
 
2. 遮蔽効果の角度依存性

 化学シフト相互作用はいうのは一般にはスカラー量ではなくて、テンソル量(化学シフトテンソル)として与えられます。これは電子が粒子としてではなく、電子雲として存在するということで説明できます。下の図はこれを模式的に表したもので、中心の丸が核でその周りにあるのが電子雲を表しています。電子雲は化学シフトに関与する部分だけを考えると、楕円球の広がりをもっていると考えることができます。 遮蔽効果は外部磁場が楕円球に対してどの方向を向いているかにより大きく変わります。例えば、楕円のZ軸と外部磁場方向が一致している場合、XY平面上の電子は核に近いので半径で回転運動して遮蔽磁場(−σ×B0)を作り出します。一方、楕円X軸と外部磁場が一致したときには、電子はXZ面に広く分布しているので、より大きな半径で回転運動をするので遮蔽磁場(−σ×B0)はそれほど大きくなりません。炭素核の場合では、σ−σは数十ppmに及びます。
 
 


 
3. 異方性があることはなにがいいのか?

 楕円球の大きさと形は分子座標と密接な関わりをもっており、多くの場合楕円のZ方向が共有結合の方向と一致するなどの性質を持っています。逆にいうと、双極子相互作用と化学シフト相互作用を相関させることで、分子構造を決めることができます。

また、異方性を消去して溶液のようなシャープな信号が欲しい場合にはMAS飛ぶを行います。


Last modified 12 March 1999 (文責: 中村 新治)