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マジック角試料回転(MAS)とは?


1.NMR観測量の異方性
NMRの観測量には異方性があります。そのためにNMRで観測される共鳴周波数は、核スピン飛ぶと静磁場間の角度によって変化します。これを、化学シフト異方性(CSA)FAQに飛ぶといいます。例として単結晶の場合を考えてみます。 単結晶中では、どの原子核も同じ方向を向きます(複数の向きを向く場合もありますが その場合でも少数の限定された方向です)。その結果単結晶を磁場中に置くと どの原子核も同じNMR共鳴周波数を示し、単結晶の向きを変えると それに応じて共鳴周波数の値も変わります。


2.液体NMR
では、一般に広く分析機器として使われている液体NMRの場合は どのようになるか考えてみましょう。液体中では分子はいろんな方向を 向いているのですが、同時にものすごく速いランダムな回転運動をしています。 NMRの共鳴周波数は、先ほどの単結晶の場合と同じで 分子の方向によって変化しているのですが、あまりにも速い運動なので 平均化されて、見かけ上ある一つの共鳴周波数しか持たないように見えます。 このおかげで液体NMRでは、先鋭化したスペクトルを示すことになります。


3.固体NMR
ついに本題の固体NMRです。粉末の固体試料を測定することを考えてみましょう。 粉末試料は、小さな単結晶試料がランダムな方向を向いたものと考える ことができます。1.で触れたように単結晶試料は向きによって異なる NMR共鳴周波数を示します。そのために粉末試料のNMRスペクトルは さまざまな共鳴線が重なり合って幅広の特異的な形を示すようになります。 このスペクトルの形をパウダー(粉末)パターンと呼びます。 実際の13C NMRスペクトルでは化学的環境の異なる各炭素原子がそれぞれ パウダーパターンを示し、重なり合ってしまいます。 そのため、観測しても何がなんだかわからないスペクトルに なってしまうのです。


4.MAS
スペクトルがわけわからなくて、悔しいので先人たちは考えました。 「液体ならランダムに動いていて平均化して先鋭化したスペクトルが 得られるのかぁ。。。じゃあ、固体もランダムに動かしてやれ」と。 でも人間の知恵ではなかなか高速にランダムに動かすなんて 難しくてできません。そこでランダムでなくても消えて欲しい 方向性依存性だけを消せばいいんだって考えで、ある角度で 高速回転させるNMR手法が提案されました。この角度を マジックアングル(54.7°)といい、手法は通常MAS(Magic Angle Spinning)と 呼ばれています。マジックアングルは、直方体の一番遠い 頂点を結んだ方向で、なんとなくこの方向で回せば平均化されそうな 雰囲気が伝わるのでは、と思います。


というわけで、MASという手法を使うことによって固体の試料でも 液体NMRと同様のスペクトルが取れるようになりました。 めでたしめでたし。

Last modified 16 March 1999 (文責: 西山 裕介)