1Hや13Cなどの原子核は「核スピン」と呼ばれる量子数をもっています。言い換えると、これらの原子核は小さな磁石のような性質を持っているわけです。こういった磁石の集団(のベクトル和)を核磁化と呼びます。
大ざっぱな言い方をすると、核磁化を好き勝手にあやつって(補足1)欲しい分子情報(補足2)を得てしまおうというのがNMRです。
普段我々が実験をするときには、超伝導磁石の中に試料を入れ、ラジオ波を照射して、核磁化からの応答を観測します。ラジオ波を照射することで核磁化をあやつるわけです。そのときに、試料を物理的に高速回転させることもあります。どちらも核磁化をあやつっていることには変わりありません。
補足1)核磁化をあやつる
1つ1つの核スピンは厳密に量子力学に従います。でも、核スピンをたくさん集めた核磁化は、それなりに古典的に扱うことも出来てしまいます(もちろん、厳密に扱うならば量子統計力学が必要ですが)。身の回りにあるマクロな物体が、古典力学で扱えるのと似ていますね。例えばz軸方向に磁場があるとき、水素の核スピンはz方向に対して+1/2か−1/2のどちらかの状態しかとることができません( スピンとは の項を参照)。
一方、核磁化はx軸方向だろうがy軸方向だろうが、どんな向きにでも自由に向くことができます。そのとき、1つ1つの核スピンがどのような状態になっているかは、あまり深く考える必要は無いでしょう。 つまり、「核磁化は、かなり自由にいじくり回せるんだぞ」ということです。
核磁化をあやつるために、ラジオ波パルスを打つという方法が良く利用されています。複数のパルスを組み合わせて、目的の情報を引き出すわけです。もちろんデタラメにパルスを打つわけではありません。核磁化のハミルトニアンを計算しながら、パルスを打つタイミングやパルスの強さ・位相などを決めていくことになります。
補足2)NMRで得られる情報
NMRは化学シフトを調べるためだけの道具ではありません。大まかに言って、NMRで得られる情報としては、・分子の運動の様子
・原子核の間の距離&角度の2つがメインです。その他、NMRを用いて実際にどのような情報が得られるかは、 このへん を参照すると良いかもしれません。
Last modified 16 March 1999 (文責: 溝上 潤)