.イオン液体中での励起分子緩和過程

 イオン液体の特性として、溶媒分子同士が強いクーロン相互作用により引き合うため、非常に粘性が高いことが挙げられる。このような粘度の高い環境中で化学反応がどのようにすすむか非常に興味が持たれる。またエネルギー散逸過程において、クーロン相互作用がどのような効果をもたらすかといった点にも着目して、我々はトリフェニルメタン系の色素の一種であるマラカイトグリーン(MG)をプローブ分子とし、その光励起後の内部転換過程ならびにエネルギー散逸過程の考察を行った。

説明: MG

 

ここではフェムト秒の過渡回折格子(T)法による測定を試みた。チタンサファイアの再生増幅器の出力を利用して、390nmS2バンドを励起後光励起後のダイナミクスを780nmの基本波でプローブした。

 図に今回用いた三種類のイオン液体中でのポピュレーショングレーティングによる信号を示す。図に示されるように、信号はおおむね5ピコ秒以内に減衰することが明らかとなった。この信号の減衰はS1状態からS2状態への内部転換過程に対応するものと考えられる。通常のアルコール溶媒ではMGS1の寿命は溶媒の粘度に依存して変化することが知られている。たとえばメタノール(0.56cP)中では0.5ピコ程度の寿命であるが、ブタノール(2.9cP)では2.3psと遅くなる。これはMGのフェニル基の回転運動が、内部転換過程に寄与しているからであると考えられている。しかしながらイオン液体中ではその粘度の大きさにもかかわらず、非常に速い内部転換過程を示すことがわかる。([BMIM][NTf2] 45 cP, [BMIM][PF6] 256cP, [BM2IM][BF4] 513cP)。このことはフェニル基の回転運動のような局所的な運動に対してはイオン液体のバルクの粘性は摩擦力の指標とはならないことを示している。

説明: MGTprof

 

 

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