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研究の概要

 多くの化学反応は溶液中でおこなわれる。溶液中におかれた分子は、まわりの溶媒分子と常に相互作用を行っており、この溶質−溶媒間の相互作用の違いが、化学反応ダイナミクスや分子ダイナミクスの違いをもたらし、その結果、反応生成物におおきな違いをもたらす。このような溶質溶媒分子間の相互作用は、フェムト秒やピコ秒といった超高速の過程では振動余剰エネルギー移動や、電子移動、プロトン移動といった反応素過程におおきな影響を与え、またナノ秒やマイクロ秒領域では二分子間の衝突、会合といったダイナミクスと関連し、さらにはミリ秒以上の長い時間領域で分子集合体の構成や組織化といった現象に深く関連する。我々の研究グループでは、このような溶質効果に興味をもち、近年、全く新しい溶媒として着目されている、超臨界流体およびイオン液体を対象とし研究を進めている。様々なレーザ分光法を駆使してその特異な溶媒効果を明らかにするとともに、これらの新規溶媒をもちいて新規素材とくに金属超微粒子の合成をすすめている。また、超臨界流体技術で培った高圧分光手法を活用し、他の研究グループと協力して高圧下でのタンパク質や生体分子のダイナミクスを研究するための高圧分光システムの開発も進めている。

 

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()超臨界流体中における化学反応と分子ダイナミクス

 気相と液相を連続的につなぐ超臨界流体をもちいた科学は、1980年代後半より飛躍的な進歩を遂げ、分離・抽出はもとより、有機合成、表面洗浄あるいは微結晶生成など多岐にわたる分野での展開を見せている。この超臨界流体を最も特徴づける性質は、臨界点近傍での大きな密度揺らぎであり、超臨界流体中に溶けている溶質分子のさまざまなプロセスに対してこの密度揺らぎがどのように反映されるのかが、これまでの超臨界流体の物理化学の中心課題であった。一般に、臨界密度付近の中密度領域では、溶質分子の周りに溶媒分子がバルクの密度以上に集まってくるという局所密度増加がみられる。このようないわゆる密度揺らぎの効果は、部分分子容のように直接的にあらわれてくる場合もあるが、多くの観測量においては必ずしも単純な形で反映されるわけではない。観測量がどのような分子間距離での相互作用を反映するかによって、密度揺らぎの効果あるいは局所密度増加のみえかたは顕著に変わってくるのである。

また、近年では超臨界水や超臨界アルコールのような水素結合性の超臨界流体中での反応が重要視されている。これらの超臨界流体中では分子間の水素結合の様子が溶媒の密度温度によってどのように変化するかが興味をもたれ、さまざまな議論が行われてきた。しかしながら超臨界水中にとけた溶質分子に関しては必ずしも十分な研究がなされていない。

 

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 我々はこのような超臨界流体の中での、化学反応と分子ダイナミクスに興味をもち、様々な分光学的な手法を用いて研究を進めている。近年、特に力を入れて進めている研究テーマは以下の二つである。

1.水素結合性超臨界流体中での共鳴・非共鳴ラマン分光

2.複雑分子系の振動緩和過程

3.超臨界水中での電子移動過程

4. 超臨界水中でのプロトン移動過程

 

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()イオン液体中における化学反応と分子ダイナミクス

 塩化ナトリウム(食塩)のような陽イオン(Na+)と陰イオン(Cl)から構成されるような物質は、イオン間の強いクーロン相互作用のため、常温では普通固体として存在する。このような塩を液体状態にするには非常に高い温度(NaCl1081K)にするしか方法がなかった。ところが、近年、有機物の陽イオンと無機物の陰イオンを組み合わせることで、常温にもかかわらず液体状態で存在するイオンから構成される物質が作り出されるようになった。

このような物質はイオン液体と総称され、これまでの液体にはなかったさまざまな特性をもつために、現在、物理化学、有機化学、電気化学、高分子化学などさまざまな分野で盛んに研究が進められている。たとえば電気伝導性をもつ液体であり、また蒸気圧がほとんどないため真空中でも扱える液体である。我々の研究グループでは、共鳴ラマン分光法や種々の時間分解レーザー分光法を用いて、イオン液体中での溶媒和や分子ダイナミクスの研究を進めている。主なテーマとしては以下のものがあげられる。

 

1.イオン液体中での励起分子緩和過程.

2.イオン液体の構造緩和

3.イオン液体中における分子拡散ダイナミクス

4.ラマン分光法によるイオン液体中での溶媒効果

5.イオン液体・二酸化炭素混合系の物性評価

6.イオン液体中でのプロトン移動ダイナミクス

7.イオン液体中でのトリヨウ化物イオンの光解離過程

 

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()デザイナー流体中での超微粒子の合成と評価

 ナノメートルサイズの金属微粒子は、触媒等への応用面もさることながら、少数多体からなる量子系としても大変興味深い特性をしめす。このような金属微粒子の粒径のコントロールは材料化学の重要なテーマであり、さまざまな手法が提案されている。我々の研究グループでは超臨界流体およびイオン液体をもちいて新規ナノ材料を調整する手法の検討を進めるとともに、X線吸収分光やX線小角散乱実験などの手法を用いて微粒子生成過程のその場観測などの検討を行っている。

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具体的には以下の研究テーマをすすめている。

1.超臨界アルコール中での貴金属微粒子の合成と構造解析

2.イオン液体中での還元反応による超微粒子の合成

3.イオン液体中でレーザーアブレーション

4.超臨界条件下でのX線吸収分光測定装置の開発

研究1,2,4は奈良女子大学生活環境学科の原田雅史先生との共同研究である。

 

(詳細はリンク先をご覧ください。2,4は準備中)

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()高圧下でのタンパク質・生体分子観測のためのセルの開発

 タンパク質や生体分子に圧力をかけるという操作は、かなり特殊な作業に思えるが、熱力学的に圧力は体積に共役な量であり、圧力変化を調べることは、タンパク質や生体分子にとって重要な構造の揺らぎをとらえることとある意味等価であり、その意義は非常に大きい。もちろん生命の起源とも言われる深海の熱水鉱床で生息するバクテリアなどの生態を調べるといった意味でも高圧生物学というのは重要である。これまでに、紫外可視吸収などの電子スペクトル、ラマンや赤外などの振動スペクトル、あるいはNMRなどの手法において、高圧実験技術が開発され適用されてきた。われわれのグループでは、研究室内の他のグループと協力して、新しい分光手法を高圧下での生体分子に適用する取り組みを進めてきた。具体的には以下の研究を行っている。

1.高圧条件下でのタンパク質のTG測定

 過渡回折格子(TG)法を光受容タンパク質に適用することにより、光反応サイクルにおける様々な熱力学量を時間分解で測定できる。この手法を高圧下でのタンパク質に適用することが可能となれば、各々の熱力学量の圧力微分を評価することが可能となる。しかしながら、熱力学量をTG法で評価するためには、光によって熱放出しか行わない参照系とタンパク質の溶液系とを、全く同じ光学アラインメント条件下で比較する必要がある。常温では光学特性の同じセルを二つ用意し、各々を交換して用いることで実験が可能であるが、全く同じ高圧セルを二つ用いることは解決策として現実的ではない。

我々は,高圧下での定量的なTG測定を行うために,内部セル方式の高圧光学セル(耐圧:450 MPa,光路長:2 mm)をデザインし,作成した(Teramecs)。太鼓型の内部セルは内容積がおよそ0.2 ccであり,少量のタンパク質サンプルを有効に利用することができる。この内部セルは特殊なホルダーによって高圧セル本体に固定され,サンプルの入れ替えの際に,非常に高い精度でセルの位置を再現することが可能となっている。内部セルはシリコンゴムでキャップされ,高圧セル内部を水を媒体として加圧することによりセル内部が圧縮される。また特徴として,TG測定に適用できるよう比較的広い散乱角(30°)を持たせてある。このような光学高圧セルを用いることで,高圧下における定量的な過渡回折格子測定を実現した。現在このセルを利用してPYPなどのタンパク質の光学応答の圧力変化の検討を進めている。

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(詳細は寺嶋チームのサイトを参照)

2.高圧顕微鏡の開発

生体分子を観測する手段としての顕微鏡は、実際の細菌やフィラメントの動きをその場観測できるという意味においてメリットが大きい。しかしながら、高圧窓の設計の関係上、高解像度と高圧力を両立させることはなかなか困難である。われわれは、200MPaの圧力条件下で蛍光顕微観測が可能な高圧顕微セルの開発を行った。

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 我々は手始めにこの高圧セルをもちいて、微小管に対する圧力効果の検討をおこなった。微小管は、全ての真核生物に存在する細胞骨格であり、タンパク質・チューブリンが非共有結合でつながった直径約25 nmの細長い管状フィラメントである。微小管は、細胞分裂時には紡錘体形成や、細胞の形状維持、物質輸送時のレールとして、様々な役割を担っている。そのフィラメント構造は、細胞の状態に呼応して、形成と解体を繰り返すため、極めてダイナミックに変化するものとなっている。微小管の長さは、チューブリン分子の重合と脱重合反応のつりあいから決定されており、これらの生化学反応は温度や圧力の熱力学的なパラメーターに大きく依存することが知られている。高静水圧力下における微小管の構造観測を通じて、脱重合反応のメカニズムを調べる研究を行った。高圧容器の観測窓には、微小管との結合能のある分子モーター・キネシンを吸着させておき、それを介して、微小管を固定した。常温常圧力下において、微小管は安定したフィラメント構造をとっており、脱重合反応は極めて遅いので検出は困難である。それに対して、加圧時には、微小管の+端、−端からそれぞれ一様に同じ速度で短縮しはじめた。これらの短縮速度は、圧力の増加と共に指数関数的に増加した。これらの短縮反応における活性化体積は、+端方向は-90±6 (ml/mol)、−端方向は-84±4mlであった。

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 現在、ここで紹介した高圧セルに改良を加えさらに解像度を高く、明るくした高圧顕微セルが稼働中である。また研究の対象も広がりつつあり、ビブリオ菌のベン毛運動などの検討も進めている。

 

 (詳細は西山チームのサイトを参照)

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