.ラマン分光法によるイオン液体の溶媒効果の検討

 イオン液体中の分子の溶媒和に関してはソルバトクロミズやダイナミック蛍光ストークスシフトなどの測定により盛んに研究が行われているが、イオン液体中の溶質分子の振動構造にまで踏み込んで研究を進めた例は少ない。我々はラマン分光法によりイオン液体中での溶質分子の振動構造に関して検討を進めている。

 下図は典型的なソルバトクロミズムを示す分子であるN,N-dimethyl-p-nitroaniline(DMPNA)のラマンスペクトルを測定した結果をしめす。図に示されるように、NO2伸縮振動のバンドは線幅、およびラマンシフトともに溶媒に依存して大きく変化することがわかる。

説明: raman1.png

 まずはシフトについてその原因を考えてみよう。下の図はラマンシフトをDMPNAのソルバトクロミズムを示す電子遷移のピークから評価した溶媒の極性基準にたいしてプロットしたものである。極性基準はシクロヘキサンがゼロ、水が1になるようにスケールしてある。図に示されるように両者は非常に良い相関をしめし、NO2伸縮振動の振動数が溶媒の極性による基底状態の電子状態変化に由来するものと考えられる。

説明: raman2.png

 

一方でラマンの線幅は振動数の揺らぎを反映するが、これは必ずしも極性指標とは一致しないことが分かってきた(下図参照)

説明: raman3.emf

振動数の揺らぎを評価する別の手法として、ここではラマンスペクトルの励起波長依存性の評価も試みた。この分子は共鳴ラマン測定においてNO2伸縮振動の振動数が、励起する波長によって変化するという興味深い現象が見られる。これは共鳴する波長に存在する分子を選択的に励起することで、異なる溶媒和状態における分子を観測していることに由来するものと解釈される。

説明: raman4.png

従って、励起波長依存性の大きさから振動スペクトルに対する溶媒和の揺らぎの大きさを評価することが可能となる。種々のイオン液体ならびに通常液体についてこのスペクトルシフトの大きさを比べたのが下図である。イオン液体の結果(■)は通常の液体で見られる相関とは全く逆の傾向を示していることがわかる。これはイオン液体中での振動数の揺らぎが通常の液体とことなるメカニズムによって支配されていることを示すものである。

説明: raman5.emf

 同様の現象が別のソルバトクロミズムを示す分子(phenol blue)においても観測されており、イオン液体の溶媒和の特異性を示すものとして重要であると考えている。この違いの原因については現在考察中である。

 

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