.イオン液体・二酸化炭素混合系の物性評価

 イオン液体には二酸化炭素が非常によくとけることが知られている。およそ6 MPa程度の加圧でモル比にして二酸化炭素が0.5ぐらいとける。下の図はBrenneckeらが測定した[BMIm][PF6]中にとける二酸化炭素のモル分率を圧力の関数として表したものである。図から明らかなように低密度領域から急速に溶解がおこり、10MPa以上の領域では、徐々に溶解度が飽和してくることがわかる。このような二酸化炭素・イオン液体混合系は二酸化炭素の有効な貯蔵法として期待されるのみならず、イオン液体の物性を改変する手段としても着目されている。しかしながらこのような混合系は二層分離していることが多く、かつ高圧下であるため、測定が困難であり、これまでそれほど多くの物性測定がなされているわけではない。

 

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我々のグループではTG法を活用して、このイオン液体二酸化炭素の飽和曲線状にそって、二酸化炭素の加圧に伴い、イオン液体層の物性がどのように変化していくのかを検討している。TG法で測定可能なのは、音速度、熱拡散定数、および質量拡散係数である。これらの量を測定するためにジフェニルシクロプロペノン(DPCP)の光解離反応を利用し、高圧セル中に閉じ込められた[BMIm][PF6]溶液に二酸化炭素を加圧して、角圧力条件で平衡に達した後に測定をおこなった。

 

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 下の図に示すのは音速度の二酸化炭素圧力依存性である。初期の加圧により急速な音速度の減少がみられる。二酸化炭素の溶解度が飽和し始めるころから音速度の減少はとまり、逆に増加するようになる。一般にイオン液体を静水圧で加圧すると音速度は上昇するので、初期に見られる傾向は二酸化炭素を溶解させたことによる効果であると考えられる。熱力学的な関係式に基づけば、音速は媒体の断熱圧縮率の逆数と比例関係にある。得られた音速度と密度のデータから断熱圧縮率を計算すると、加圧の初期過程において断熱圧縮率は増加し、二酸化炭素のモル分率が飽和してくると減少する傾向にあることがわかった。すなわち二酸化炭素を加えることでイオン液体はいったん柔らかくなることが示された。

 

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 次に、二酸化炭素イオン液体混合系にとけた溶質分子の拡散係数の様子を下図に示す。図から明らかなように加圧によって拡散係数は非常に大きく変化することがわかる。さらにその変化の大きさが溶質分子によって異なることも分かってきた。すなわちCOのような小さい分子では変化の割合も小さく4倍程度であるが、DPADPCPのような分子では10倍もの大きな変化が観測された。SE則との関連を考察するため、文献の粘度の値と比較してみると、拡散係数の変化の割合は粘度の変化以上に大きくSE則は全く成り立たないことが明らかとなっている。

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 我々は[BMIm][NTf2]および[BMIm][BF4]に対しても同様の実験をおこない、類似の結果が得られることを確認した。このことからイオン液体・二酸化炭素混合系におけるダイナミクスの変化はユニバーサルな性質であることが示された。

現在、イオン液体・二酸化炭素混合系における溶媒和ダイナミクスについて、時間分解蛍光測定により測定を進めている。

 

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