7. イオン液体中でのトリヨウ化物イオンの光解離過程

 

 ヨウ化物イオンはイオン液体の応用において重要な位置を占める。たとえば色素増感太陽電池の電解液としてヨウ化物イオンとヨウ素の混合系がしばしば用いる。この系においては、ヨウ化物イオンとトリヨウ化物イオンの濃度の増加に伴い、電気伝導性が非線形に増大するという結果が示されているが、図に示すようなGrötthuss機構類似のメカニズムが拡散に影響を与えていると考えられている。

我々はトリヨウ化物イオンの光解離初期過程の測定をおこない、ヨウ化物イオンの関連する系での溶媒イオンのCage効果や拡散メカニズムなどの検討を進めている。トリヨウ化物イオンを紫外光で光励起すると、結合の解離が生じ、ジヨウ化物イオンとヨウ素原子が生成する。通常の液体中ではこの一部が完全に解離し自由なジヨウ化物イオンならびにヨウ素原子が生成する。これらの反応過程は800nm付近に存在するジヨウ化物イオンの過渡吸収を観測することにより評価することができる。ではイオン液体中ではどのような光解離過程が観測されるであろうか?

図に[BMIm][NTf2]とメタノールで観測された過渡吸収の時間変化を比較したものを示す。観測されたダイナミクスは基本的に同じであるが、メタノール中では過渡吸収信号に長時間成分が観測されるのに対し、イオン液体中では200 ps程度でほぼ過渡吸収信号が観測されなくなってしまう。これは、イオン液体中では解離生成物がほぼ100%の確率でジェミネート再結合をおこなうことを示している。さらに、過渡吸収信号を詳細に解析すると、通常溶液中では、振動緩和完了後のはじめの数十ピコ秒でスペクトル形状が変化するのに対し、イオン液体中ではスペクトル形状の変化がほとんど観測されない。このことは、イオン液体中では解離生成物がコンタクトイオンペアの状態で存在することを示唆するものである。これらの現象はイオン液体に限らず、高粘度の通常溶媒でも観測されることがあきらかとなり、高粘性溶媒のCage効果によるものであると考えられる。

 一方で、[BMIm]I中での光解離過程は全く異なった様相を示す。図に示すように、過渡吸収信号は長時間においても減衰せずに長寿命のジヨウ化物イオンが生成していることがわかる。[BMIm]Iの粘度が1200cP以上であることを考えると、Cage効果が小さくなったために解離生成物が生じたとは考えにくい。我々は、これは溶液中に過剰に存在するヨウ化物イオンが解離によって生成したヨウ素原子と反応することによって、新たにジヨウ化物イオンが生成し、そのジヨウ化物イオンが電荷反発により解離していくことによるものであると解釈した。

ここで観測された過剰のジヨウ化物イオンはGrötthuss機構類似のメカニズムによってイオン液体中で生成したものと考えられる。現在、これらの反応初期過程や生成したジヨウ化物イオンの回転ダイナミクスなどの観点から詳細な検討を進めている。

 

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