第18回 分子シミュレーション 夏の学校




講義内容

基礎講義

講師

蒲池 高志先生(九州大学)

タイトル

全体基礎講義: 計算化学による反応解析の基本と実践へのヒント

内容

 本講義では計算化学を使って化学反応を理解したいと考えている初学者を念頭に,計算を正しく,あるいは効率よく進めるために理解すべき理論や方法論の要点を説明する.結局のところ,一番難しいのは得られた計算結果の解釈であり,計算手法の制約や限界に由来する誤った結果を見抜き,化学的に妥当な結論にたどり着くためのヒントを提示したい.
 前半では数10から100原子程度までの中規模系について量子化学計算,特に密度汎関数法を用いた反応機構解析について考える.計算化学的に妥当なモデルの設定,計算手法の選択,ありがちなエラーへの対処法から遷移状態を求めるための戦略など広く解説する.また,これまでの研究事例から教育的な例をとりあげ,受講者の計算化学をとおして化学を視る力を高めたい.
 後半ではQM/MM法を用いた酵素触媒反応のシミュレーションをとりあげる.CHARMM力場,psfファイル作成,妥当な酵素のモデルを作成するための計算手順など,酵素のQM/MM計算に必要となる分子力学計算の手法についてはじめに解説する.時間が許せば,MMの応用としてdockingシミュレーションに触れる予定である.その後,QM/MM法で使われる手法を解説し,具体的な研究事例を紹介する.QM/MM法を行う上で,注意が必要な点や難しいと感じることなど,その実際のところについても話したい.

分科講義

講師

石田 豊和先生(産業技術総合研究所)

タイトル

QM分科会:酵素反応系の理論計算分子科学

内容

 QM/MM計算が実用的な計算手法として広く普及した結果、酵素反応に代表される生体系の分子計算が現実的な研究課題となり、世界各国で幅広く研究が展開されています。このような状況を踏まえて本分科会では、特に酵素反応系の扱いを念頭においた、QM/MM計算、中でもQM計算の各種方法論にフォーカスした解説を行いたいと考えています。まず酵素反応の基本を生化学の視点から復習する事からスタートして、「実験から得られる情報を合理的に解釈するために、理論計算から何が必要か」を明確にして、過去の酵素反応系に対する量子化学研究の発展も交えて紹介しながら、QM/MM計算の必要性と、そこで用いられる各種計算手法の解説を行いたいと思います。具体的には、1)QM/MM計算の組み合わせから見た電子状態計算手法の解説、2)各種の物性値を計算する手法、特に自由エネルギー計算の必要性、3)また大きな系への量子計算の可能性として、高精度電子状態計算および全系量子計算の現状に関して、私自身の過去の研究成果も交えて解説しつつ、この分野の現状や今後を考えてみたいと思っています。

講師

森 俊文先生(分子科学研究所)

タイトル

MM分科会:タンパク質の構造変化ダイナミクスと化学反応

内容

 近年の計算機の発展と計算手法の発達により、タンパク質中などの複雑な環境下での化学反応を理論的アプローチにより明らかにすることが可能になりつつある。これらの複雑な系での化学反応では、多くの場合タンパク質の大きな構造変化が付随して起きており、反応機構を明らかにする上でこれらのタンパク質の構造変化の理解は不可欠である。本分科会では、分子動力学シミュレーションの立場から、タンパク質のダイナミクスを理解するためのアプローチや研究の最前線について紹介することで、タンパク質ダイナミクスの役割について考えていきたいと思っている。
 講義では、まず分子動力学法について簡単に復習したあと、タンパク質ダイナミクスの解析法について解説する。特に、QM/MM法を用いた反応の解析とシミュレーション結果を結びつける上で重要な、自由エネルギーの計算法について詳しく解説する。また通常の分子動力学シミュレーションでは困難なサンプリングを効率的に行う、種々の拡張アンサンブル法についても紹介する予定である。さらに、タンパク質の構造変化とそれに伴う化学反応に関する具体的な研究例をいくつか取り上げることで、タンパク質のダイナミクスと化学反応をどうとらえるべきかについて議論したいと考えている。