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NMRにおけるフーリエ変換(FT)について
1. FID --- 実験的に検出される核スピンの回転
「NMRとは」の項目で解説してあるように、NMR現象の本質は、磁場中で核スピンという「磁石」が回ることにあります。
この「磁石」の回転の様子を捉えるためにコイルを用います。
原理は発電機と同じ(ファラデーの電磁誘導)で、コイルの中で「磁石」が回転するときに生じる誘導起電力を検出することで核スピンの回転の様子を捉えることができます。
コイルで検出したNMR信号は、周期的に振動する波形を示します。
これを、"FID(えふあいでぃー)"と呼びます。
これは"Free Induction Decay:(自由誘導減衰)"の略称です。
物質中に含まれる個々の核スピンは、周囲の環境(近傍の電子状態や他の核スピンの存在)によって少しずつ異なる速度で回転しているために、一般にFIDはさまざまな周波数で振動する波形の重ね合わせからなります。
2. フーリエ変換(Fourier Transformation)とスペクトル(Spectrum)
一般に、周期的に振動する信号波形を周期関数(サイン、コサイン関数)で展開すると信号の性質が非常に明解になります。
信号を周期関数で展開することを"フーリエ変換"(Fourier transformation)、その展開係数を用いて表現しなおした信号を"スペクトル"(spectrum)と呼びます。
しばしばフーリエ変換のことをその英語の頭文字をとって、"FT(えふてぃ)"と呼んでいます。
上の議論はNMRにおいても然り。
実験的に検出する「FID」とフーリエ変換をほどこした「NMRスペクトル」には同じ情報が含まれています(異なっているのはその情報の「表現法」!)。
NMR信号の性質上、核スピンの回転の様子が明瞭に現れるのはFIDよりもNMRスペクトルの方なので、NMR測定によってFIDを得た後にフーリエ変換をしてNMRスペクトルを得る、というのが通常行われる実験の手順になっています。
3. FIDとNMRスペクトルの例
L-アラニン(L-alanine)の炭素13固体NMR信号: FIDとスペクトル。
Last modified 16 Feb. 1999 (文責: 武田和行)