本文へスキップ

中曽根 祐介Yusuke Nakasone

過渡回折格子(TG)法

図1に示すように試料内で2本の励起パルス光を交差させ、光学的干渉縞を形成する。すると干渉縞にならって空間特異的に試料分子が励起され、励起分子からの熱放出や反応に伴う吸収変化・体積変化によって溶液の屈折率が変化する。この屈折率変調が過渡的な回折格子として働き、プローブ光(CW)Bragg条件を満たす角度で入射すると回折現象が起こる。こうして得られた回折光の強度は屈折率変化の二乗に比例するが、その時間変化をTG信号として検出することで、光励起後の吸収変化や体積変化、熱エネルギー放出といった情報が時間分解で得られる。さらに回折格子は、分子や熱が溶液中を拡散することによって消滅するので、TG信号の時間変化から分子や熱の拡散過程(拡散係数)を短時間で評価することが出来る。こうして検出された拡散係数を介して、蛋白質全体の構造変化や会合・解離反応を、溶液中という生理条件に近い環境下で、時間分解測定できる。これは他の分光法では得難い情報であり、非常に独創的である。またTG法では、測定条件(温度・圧力・pHなど)を自由に選択することが可能であるため、外的環境の変化に対する蛋白質の挙動についても考察が容易である。

光センサー蛋白質

多くの生命は外界を認識し適応するため、光情報のセンシング機構を持っている。光照射により、センサー蛋白質の構造変化や蛋白質間相互作用の変化が誘起され、シグナル伝達を達成し機能発現に至る。この分子論的機構解明は現代自然科学の最終目標の一つであり、活発に研究がなされている。



               1. phototropin (シロイヌナズナ)

 Phototropinは、植物の様々な運動反応を制御することにより、光合成を増大させる重要な機能を持つ青色光センサー蛋白質である。光受容を担うドメインとしてLight-Oxygen-Voltage-sensing (LOV)ドメインを有しており、その光反応が多くの興味を集めてきた。

Phototropinは光受容を担う二つのLOVドメイン(LOV1、LOV2)と、活性化を示すSer/Thr kinaseドメイン、さらにLOV2とkinaseを結ぶlinkerドメインから構成されている(図2)。

光照射後のシグナル伝達機構に関する知見を得るために、シロイヌナズナのLOV2単体(LOV2試料)とそれにlinkerを付随させたもの(LOV2-linker試料)を用いて、その光誘起反応に関する考察をTG測定により行った。

波長465nmのパルス光で励起した後の回折光強度の時間変化(TG信号)を図3に示す。それぞれの試料で発色団近傍の構造変化に起因する吸収スペクトル変化による信号(〜2μs)と、励起分子から放出された熱の拡散信号が、比較的早い時間スケール(~100マイクロ秒)で観測された。その後の信号は、蛋白 質分子が溶液中を拡散していく過程を反映した信号であると同定され、また興味深いことにこの拡散信号の形や強度が時間変化することが明らかになった。この 分子拡散信号は光励起による生成物の拡散係数を情報として含んでおり、その形や強度が時間発展することは、観測している時間スケールにおいて拡散係数変化を伴う蛋白質全体の反応が起こっていることを意味している。両方の試料でこの拡散係数変化が観測されたが、その特徴には違いが見られた。詳細な解析の結果、LOV2試料ではダイマー・モノマー間の解離や会合反応が光誘起されることがわかった。またLOV2-linker試料では300msでlinkerドメインがLOV2ドメインから解離する反応が起こり、さらにlinker部分のhelix崩壊という劇的な反応が1msで誘起されることが明らかになった(図4)。

またTG法の温度変化測定の結果から、温度上昇に伴いLOV2とlinkerの解離物が暗状態でも形成されることがわかった。さらに初期状態で解離している分子種は光励起してもhelixの崩壊反応を示さないということも明らかになった。これは暗状態で既にhelixが壊れていることを意味しているのかもしれない。現在、LOV2ドメインは活性機能を示すkinaseドメインに結合することで、その活性を抑制していると考えられている。そして光励起によってkinaseから解離することで活性化が起こり、シグナル伝達が達成される。これを踏まえると、温度上昇によるLOV2-linker間の解離は、in vivoではLOV2ドメインがkinaseドメインから解離している状態に対応すると考えられ、kinaseの活性化が温度上昇からももたらされることになる。以上からphototropinは植物内で光センサーであると同時に温度センサーとしての機能を有している可能性があることが示唆された(図5)。






以下、建設中


phototropin (クラミドモナス)



FKF1 (シロイヌナズナ)



UVR8 (シロイヌナズナ)



YtvA (枯草菌)



YcgF (大腸菌)



PixD (シアノバクテリア)
         


光センサー以外の蛋白質

KaiA・KaiB・KaiC



Lysozyme