図1 過渡回折格子法の概念図

 図1に示すように試料内で2本の励起パルス光を交差させ, 光学的干渉縞を形成する。すると干渉縞にならって空間特異的に試料分子が励起され, 励起分子からの熱放出や反応に伴う吸収変化・体積変化によって溶液の屈折率が変化する。この屈折率変調が過渡的な回折格子として働き, プローブ光(CW)をBragg条件を満たす角度で入射すると回折現象が起こる。
 こうして得られた回折光の強度は屈折率変化の二乗に比例するが, その時間変化をTG信号として検出することで, 光励起後の吸収変化や体積変化, 熱エネルギー放出といった情報が時間分解で得られる。
 さらに回折格子は, 分子や熱が溶液中を拡散することによって消滅するので, TG信号の時間変化から分子や熱の拡散過程(拡散係数)を短時間で評価することが出来る。こうして検出された拡散係数を介して, 蛋白質全体の構造変化や会合・解離反応を, 溶液中という生理条件に近い環境下で, 時間分解測定できる。これは他の分光法では得難い情報であり, 非常に独創的である。またTG法では, 測定条件(温度・圧力・pHなど)を自由に選択することが可能であるため, 外的環境の変化に対する蛋白質の挙動についても考察が容易である。

以上のように過渡回折格子法は, 時間分解熱力学量測定と時間分解拡散係数変化測定という2つの特徴を持つ。

それぞれの応用例などは以下を参照してください。

総説:時間分解タンパク質間相互作用検出法とその応用
寺嶋正秀, 生物物理, 47, 4, 235-240 (2007)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/47/4/47_4_235/_pdf

解説:熱力学量の時間分解計測法とその応用
寺嶋正秀, 熱測定, 29, 5, 208-216 (2002)
https://www.netsu.org/j+/Jour_J/pdf/29/29-5-208.pdf