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水クラスターにおける水素結合の量子ダイナミクス

水分子は、水素結合によって互いに結びつきます。液体の水においては、水素結合の絶え間ない組み替えに伴って、水素結合のネットワークによりゆるやかに結びついた水分子の3次元的な網目構造が、次々と形を変えながら生成・消滅を繰り返します。水分子の水素結合は、水溶液中の化学反応や、生体内における生命現象にも大きな影響を及ぼしていると考えられています。

当研究室の熊谷・奥山らは、金属表面上に単離した水分子二量体クラスターにおいて、水素結合の組み替えダイナミクスを実空間で直接観測することに成功しました。さらに、この水素結合の組み替えが、量子力学的なトンネル効果によって支配されている様子を明らかにしました。
(Phys. Rev. Lett. 100, 166101 (2008))

極低温のCu表面に水分子の二量体クラスターを作成し、そのダイナミクスを走査トンネル顕微鏡によって研究しました。クラスターは2つの水分子が水素結合により会合したもので、水素結合のドナーとなる水分子の酸素原子を介して表面に吸着しています。走査トンネル顕微鏡像の時間変化から、これらドナー水分子とアクセプター水分子の間で水素結合の組み替えが起こり、それに伴って、クラスターが、2つの安定構造の間をスイッチングすることがわかりました。

さらに、同位体効果からこの組み替え過程には量子力学的トンネル効果が主に関与していることを見出し、第一原理電子状態計算に基づく考察によっても支持されました。