[26]ヘキサフィリンに対してNaAuCl4を作用させることで対応する平面長方形型の金(III)二核錯体を合成した。そこでこの化合物に対してNaBH4を作用させたところ、長辺にあるイミン型の窒素原子が還元されアミン型となることでπ電子数が26から28へと変化した。これにより平面型のヒュッケルトポロジーに4n個のπ電子が収容されることで、この錯体は強力な反芳香族性を示した。
S. Mori, A. Osuka, J. Am. Chem. Soc., 2005, 127, 8030-8031.
環拡張ポルフィリンの中でもピロールを8つ含むオクタフィリンは8の字型の構造をしており、ちょうど左右にポルフィリンに似たピロール4つからなる構造を持っている。私達はオクタフィリンの銅(II)二核錯体を合成した結果、これが中心で結合の組み換えを起こしてポルフィリン2つになるという驚くべき反応を発見した。この分裂反応はポルフィリン化学の枠をまったく超えており、非常に奇異な反応である。しかも分裂はオクタフィリンのもつ左右2つの4ピロール空孔に銅イオンが入っているときにのみ起こり、細胞分裂がおこるとき細胞に核が必須であることを彷彿とさせる。また、分裂反応の前後(オクタフィリン→ポルフィリン×2)で吸収特性が大きく変わることから光デバイスや記録デバイスといった方面への応用が可能であり、反応自体の面白さだけでなく、応用面からも非常に興味深い。
ヘプタフィリンは分子全体がねじれることで、ポルフィリン型の平面四角形型の配位場と、残りの3つのピロールにより構成されるT字型の配位場という2つの異なる形式の配位場を形成する。我々はこれに亜鉛(II )と銅(II)を逐次的に錯化させることで、銅(II)亜鉛(II)複核錯体を合成した。興味深いことにこの錯体においては、ヘプタフィリンの作り出す特異な配位場のおかげで銅(II)の周辺に3つの配位子がT字型に配位するという非常に珍しい配位形式が実現した。このような配位形式は銅タンパク質に多く見られることから、生体内における銅(II)の性質の解明やこれに基づく生体模倣に役立つと考えられる。
また、得られた知見に基づき、同様のT字型を有する四重縮環ヘプタフィリンに対しても銅錯化を行った。銅(II)亜鉛(II)複核錯体においてはピロールの銅への弱い配位が観測されたが、こちらの錯体において銅(II)イオンはより理想的なT字型錯体を形成していることが分かった。
S. Saito, K. Furukawa, A. Osuka, Angew. Chem. Int. Ed., 2000, 48, 8086-8089.