役職:助教
血液型:AB型
専門:生物物理, 物理化学, 光生物, 分子生物学
略歴:徳島県生まれ, 千葉県育ち。京都生活は11年目。オランダにも2年在住。
趣味:旅行, 料理, 楽しいお酒
連絡先:nakasone at kuchem.kyoto-u.ac.jp




研究概要

 タンパク質は現在, 機能・構造・反応という大きく分けて三つの分野から研究されている。いずれもタンパク質の特性を知る上で重要な情報であり, 生体分子の理解に大きく貢献している。近年では分光法が普及したことによって, 特に反応に関する情報が多く得られるようになった, 我々の研究対象である光受容タンパク質では, 発色団近傍の構造変化を捉えることが可能な過渡吸収測定により, その反応機構が広く報告されている。しかしながら光センサーのように, 光情報を下流へと伝達するタンパク質は, 発色団近傍のみならずタンパク質全体の構造変化を捉え, さらに分子間のシグナル伝達過程を時間分解で捉えることが, 本質を理解する上で必要不可欠である。

 本研究では, 光誘起拡散係数変化を非常に短時間かつ幅広い時間領域(100μs~10s)で観測可能な過渡回折格子(TG)法によりタンパク質反応を測定することで, 分子間の解離・会合反応, 蛋白質全体の高次構造変化を時間分解で捉えることを目指している。またTG法では, 反応中間体の基底状態からのエンタルピー差や反応に伴う体積変化量を非平衡下で決定することができ, 蛋白質分子の反応ダイナミクスを熱力学的な観点からも研究することができる。こうした実験技術を駆使し蛋白質の反応ダイナミクスを実測することで, 「構造」から「機能」へ至る道筋を明らかにすることを目標に研究を行っている。

研究対象1:光センサータンパク質

 多くの生命は外界を認識し適応するため, 光情報のセンシング機構を持っている。光照射により, センサー蛋白質の構造変化や蛋白質間相互作用の変化が誘起され, シグナル伝達を達成し機能発現に至る。この分子論的機構解明は現代自然科学の最終目標の一つであり, 活発に研究がなされている。

1. phototropin (シロイヌナズナ)

 Phototropinは, 植物の様々な運動反応を制御することにより, 光合成を増大させる重要な機能を持つ青色光センサー蛋白質である。光受容を担うドメインとしてLight-Oxygen-Voltage-sensing (LOV)ドメインを有しており, その光反応が多くの興味を集めてきた。

 

 Phototropinは光受容を担う二つのLOVドメイン(LOV1、LOV2)と, 活性化を示すSer/Thr kinaseドメイン, さらにLOV2とkinaseを結ぶlinkerドメインから構成されている(図2)。

 光照射後のシグナル伝達機構に関する知見を得るために, シロイヌナズナのLOV2単体(LOV2試料)とそれにlinkerを付随させたもの(LOV2-linker試料)を用いて, その光誘起反応に関する考察をTG測定により行った。波長465nmのパルス光で励起した後の回折光強度の時間変化(TG信号)を図3に示す。

 

 それぞれの試料で発色団近傍の構造変化に起因する吸収スペクトル変化による信号(~2 μs)と, 励起分子から放出された熱の拡散信号が, 比較的早い時間スケール(~100 μs)で観測された。その後の信号は, 蛋白 質分子が溶液中を拡散していく過程を反映した信号であると同定され, また興味深いことにこの拡散信号の形や強度が時間変化することが明らかになった。この分子拡散信号は光励起による生成物の拡散係数を情報として含んでおり, その形や強度が時間発展することは, 観測している時間スケールにおいて拡散係数変化を伴う蛋白質全体の反応が起こっていることを意味している。両方の試料でこの拡散係数変化が観測されたが, その特徴には違いが見られた。詳細な解析の結果, LOV2試料ではダイマー・モノマー間の解離や会合反応が光誘起されることがわかった。またLOV2-linker試料では300 msでlinkerドメインがLOV2ドメインから解離する反応が起こり, さらにlinker部分のhelix崩壊という劇的な反応が1msで誘起されることが明らかになった(図4)。

 

 またTG法の温度変化測定の結果から, 温度上昇に伴いLOV2とlinkerの解離物が暗状態でも形成されることがわかった。さらに初期状態で解離している分子種は, 光励起してもhelixの崩壊反応を示さないということも明らかになった。これは暗状態で既にhelixが壊れていることを意味しているのかもしれない。現在, LOV2ドメインは活性機能を示すkinaseドメインに結合することで, その活性を抑制していると考えられている。そして光励起によってkinaseから解離することで活性化が起こり, シグナル伝達が達成される。これを踏まえると, 温度上昇によるLOV2-linker間の解離は, in vivoではLOV2ドメインがkinaseドメインから解離している状態に対応すると考えられ, kinaseの活性化が温度上昇からももたらされることになる。以上からphototropinは植物内で光センサーであると同時に, 温度センサーとしての機能を有している可能性があることが示唆された(図5)。

 

その他(建設中)

phototropin (クラミドモナス)

FKF1 (シロイヌナズナ)

UVR8 (シロイヌナズナ)

YtvA (枯草菌)

YcgF (大腸菌)

PixD (シアノバクテリア)

研究対象2:光センサー以外のタンパク質

KaiA・KaiB・KaiC

Lysozyme

研究業績

学術雑誌に発表した論文

(16) Modeling the functioning of YtvA in the general stress response in Bacillus subtilis.
van der Steen JB, Nakasone Y, Hendriks J, Hellingwerf KJ.
Mol Biosyst. 2013. 9(9):2331-43. 査読有

(15) Photochemistry of Arabidopsis phototropin 1 LOV1: transient tetramerization.
Nakasone Y, Zikihara K, Tokutomi S, Terazima M.
Photochem Photobiol Sci. 2013. 12(7):1171-9. 査読有

(14) Time-Resolved Tracking of Interprotein Signal Transduction : Synechocystis PixD-PixE Complex as a Sensor of Light Intensity
Tanaka K, Nakasone Y, Okajima K, Ikeuchi M, Tokutomi S, Terazima M.
J Am Chem Soc. 2012. 134(20): 8336-9. 査読有
(13) Light-Induced Conformational Change and Transient Dissociation Reaction of the BLUF Photoreceptor Synechocystis PixD (Slr1694). 
Tanaka K, Nakasone Y, Okajima K, Ikeuchi M, Tokutomi S, Terazima M.
J. Mol. Biol. 2011. 409(5): 773-85. 査読有
(12) On the Binding of BODIPY-GTP by the Photosensory Protein YtvA from the Common Soil Bacterium Bacillus subtilis. 
Nakasone Y, Hellingwerf K. J. 
Photochem Photobiol. 2011. 87(3):542-7. 査読有
(11) A way to sense light intensity: Multiple-excitation of the BLUF photoreceptor TePixD suppresses conformational change. 
Tanaka K, Nakasone Y, Okajima K, Ikeuchi M, Tokutomi S, Terazima M. 
FEBS Lett. 2011. 585(5):786-90. 査読有
(10) Kinetics of conformational changes of the FKF1-LOV domain upon photoexcitation. 
Nakasone Y, Zikihara K, Tokutomi S, Terazima M. 
Biophys J. 2010. 99(11):3831-9. 査読有
(9) When is the helix conformation restored after the reverse reaction of phototropin? 
Kawaguchi Y, Nakasone Y, Zikihara K, Tokutomi S, Terazima M. 
J Am Chem Soc. 2010. 132(26):8838-9. 査読有
(8) Temperature-sensitive reaction of a photosensor protein YcgF: possibility of a role of temperature sensor.
Nakasone Y, Ono TA, Ishii A, Masuda S, Terazima M.
Biochemistry. 2010. 49(10):2288-96. 査読有
(7) Oligomeric-state-dependent conformational change of the BLUF protein TePixD (Tll0078). 
Tanaka K, Nakasone Y, Okajima K, Ikeuchi M, Tokutomi S, Terazima M. 
J Mol Biol. 2009. 386(5):1290-300. 査読有
(6) Stability of dimer and domain-domain interaction of Arabidopsis phototropin 1 LOV2. 
Nakasone Y, Eitoku T, Zikihara K, Matsuoka D, Tokutomi S, Terazima M. 
J Mol Biol. 2008. 383(4):904-13. 査読有
(5) Photochemical intermediates of Arabidopsis phototropin 2 LOV domains associated with conformational changes. 
Eitoku T, Nakasone Y, Zikihara K, Matsuoka D, Tokutomi S, Terazima M. 
J Mol Biol. 2007. 371(5):1290-303. 査読有
(4) Transient dimerization and conformational change of a BLUF protein: YcgF. 
Nakasone Y, Ono TA, Ishii A, Masuda S, Terazima M. 
J Am Chem Soc. 2007. 129(22):7028-35. 査読有
(3) Dynamics of conformational changes of Arabidopsis phototropin 1 LOV2 with the linker domain. 
Nakasone Y, Eitoku T, Matsuoka D, Tokutomi S, Terazima M. 
J Mol Biol. 2007. 367(2):432-42. 査読有
(2) Kinetic measurement of transient dimerization and dissociation reactions of Arabidopsis phototropin 1 LOV2 domain.  
Nakasone Y, Eitoku T, Matsuoka D, Tokutomi S, Terazima M. 
Biophys J. 2006. 91(2):645-53. 査読有
(1) Conformational dynamics of phototropin 2 LOV2 domain with the linker upon photoexcitation.
Eitoku T, Nakasone Y, Matsuoka D, Tokutomi S, Terazima M. 
J Am Chem Soc. 2005. 127(38):13238-44. 査読有


受賞歴

(6) 第93回日本化学会春季年会にて日本化学会より優秀講演賞(学術)を受賞(2013年4月18日)
(5) 第2回分子科学討論会にて分子科学会より優秀ポスター賞を受賞(2008年10月16日)
(4) 第8回日本蛋白質科学会年会にて日本蛋白質科学会よりポスター賞を受賞(2008年6月13日)
(3) 第88回日本化学会春季年会にて日本化学会より学生講演賞を受賞(2008年4月10日)
(2) 第1回分子科学討論会にて分子科学会より優秀講演賞を受賞(2007年10月16日)
(1) 2007年光化学討論会にて光化学協会より最優秀学生発表賞を受賞(2007年9月27日)

学会発表

 招待講演

(4) 「先端的レーザー分光技術による分子科学の新展開」にて招待講演(2013年2月)
(3) 「第2回光科学異分野横断萌芽研究会」にてチュートリアル講演(2012年8月)
(2) 「Dutch photoreceptor meeting 2009」にて招待講演(2009年9月)
(1) 日本化学会第89春季年会「アジア国際シンポジウム(Organic photochemistry)」にて招待講演(2009年3月)

 国際会議における発表

(12) Thermodynamic measurement of the structural fluctuation in the signaling state of phototropin
『The 6th international symposium of molecular science of fluctuations toward biological functions』, (December 2012)
(11) Structural fluctuation of signaling state of phototropin1-LOV2 domain studied by transient grating method and pressure perturbation calorimetry
『The 5th international symposium of molecular science of fluctuations toward biological functions』, (January 2012)
(10) The biological relevance of photochemical reaction of LOV protein YtvA and its NTP binding ability
『The annual Dutch meeting on Molecular and Cellular Biophysics 2011』, (October 2010)
(9) The biological relevance of photochemical parameters and microscopic rate constants of the light-sensor protein YtvA from Bacillus subtilis
『Netherlands Consortium for Systems Biology (NCSB) Kick-Off symposium』,(October 2009)
(8) The biological relevance of photochemical parameters and microscopic rate constants of the light-sensor protein YtvA from Bacillus subtilis
『5th Netherlands Institute for Systems Biology (NISB) symposium』,Veldhoben, (October, 2009)
(7) Biological relevance of photochemistry of LOV protein YtvA
『The annual Dutch meeting on Molecular and Cellular Biophysics 2010』, Eindhoven, The Netherlands, (October 2009)
(6) Direct time-resolved measurement of the thermodynamical properties of photoreceptor protein “phototropin”
『Gordon research conference “Photoacoustic & photothermal phenomena”, 23, Ventura, USA (February 2008)
(5) Equilibrium between monomer and dimer forms of photosensor protein phototropin1-LOV2 domain
『2007 KAIST-Kyoto University Chemistry Symposium』, #14, Kyoto. Japan (January 2007)
(4) Equilibrium between monomer and dimer forms of phototropin1-LOV2 domain
『EABS&BSJ 2006』, 1P440, Okinawa. Japan (November 2006)
(3) Photo-induced structural change of BLUF protein YcgF
『XXIst IUPAC Symposium of Photochemistry』, P009, Kyoto. Japan (April 2006)
(2) Conformational dynamics of phototropin1-LOV2 domain with the linker part upon photoexcitation
『Pacifichem 2005』, 1333, Hawaii. USA (December 2005)
(1) Structual Dynamics of Phot2-LOV2 Domain from Arabidopsis studied by Transient Grating method
『58th Yamada Conference』、Okazaki. Japan (June 2004)  

 国内学会・シンポジウムにおける発表 

(24) 光センサー蛋白質フォトトロピンの反応中間体が持つ構造揺らぎの熱力学的評価
『第93回日本化学会春季年会』、4E2-30, 滋賀, 2013年3月
(23) Time-resolved study on photoreaction dynamics of full-length phototropin from Chlamydomonas reinhardtii
『第50回生物物理学会年会』、2F1510, 名古屋, 2012年9月
(22) 光センサー蛋白質フォトトロピンの活性状態における構造揺らぎの評価
『第6回分子科学討論会2012』、3P-081、東京、2012年9月
(21) 植物由来の光センサー蛋白質phototropin-LOV1ドメインの光誘起会合反応
『第92回日本化学会春季年会』、3D6-38, 東京、2012年3月
(20) バクテリア由来のLOV蛋白質YtvAの光反応とその生理的意味
『第90回日本化学会春季年会』、大阪、2010年3月
(19) 植物由来の青色光センサーLOVドメインの光反応とその多様性
『第89回日本化学会春季年会』、2J1-32, 千葉, 2009年3月
(18) Photo-induced reaction dynamics of LOV domains from Arabidopsis
『第46回生物物理学会年会』、2P-277, 福岡, 2008年12月
(17) 青色光受容蛋白質フォトトロピンの分子論的反応からみた温度センサーとしての可能性
『第2回分子科学討論会2008』、3P54、福岡、2008年9月
(16) 青色光センサーBLUF 蛋白質YcgF の温度依存的会合とその光反応
『2008年光化学討論会』、1C12, 大阪, 2008年9月
(15) BLUF蛋白質YcgFの温度依存的反応分子機構 -温度センサーとしての可能性-
『第35回生体分子科学討論会』、14、相生、2008年6月
(14) 青色光センサーBLUF 蛋白質の光反応からみた情報伝達機構
『第8回日本蛋白質科学学会年会』、2P-066、東京、2008年6月
(13) 青色光センサー蛋白質フォトトロピンの温度依存的光反応
『第88回日本化学会春期年会』、4C5-39、東京、2008年3月
(12) The photo-induced change of inter/intra molecular interaction of BLUF protein
『第5回「水と生体分子」公開ワークショップ』、P73、奈良、2008年1月
(11) BLUFタンパク質における光誘起分子内・分子間相互作用変化
『第45回生物物理学会年会』、3P247, 横浜, 2007年12月
(10) 青色光センサーBLUF蛋白質の情報伝達のための光反応
『2007年光化学討論会』、1P022, 松本, 2007年9月
(9) 青色光センサー蛋白質フォトトロピンの光反応分子機構とその熱力学的ダイナミクス
『第1回分子科学討論会2007』、1C13、仙台、2007年9月
(8) BLUF蛋白質YcgFの光誘起反応分子機構
『第34回生体分子科学討論会』、23、仙台、2007年6月
(7) 青色光受容ドメイン(LOV1・LOV2)の光誘起反応分子機構
『日本化学会第87回春期年会』、4K1-32、大阪、2007年3月
(6) Kinetic measurement of photoinduced dimerization process of BLUF protein YcgF
『第4回「水と生体分子」公開ワークショップ』、P067、京都、2006年12月
(5) 青色光センサーBLUF蛋白質(YcgF)の光誘起二量体形成反応
『2006年光化学討論会』、3P061, 仙台、2006年9月
(4) 青色光センサー蛋白質フォトトロピンのドメイン間相互作用変化
『分子構造討論会2006』、2A12、静岡、2006年9月
(3) 青色光受容体フォトトロピン1LOV2ドメインの光誘起構造変化
『日本化学会第86回春期年会』、1G4-37、千葉、2006年3月
(2) 光誘起拡散係数変化より見たフォトトロピンの構造変化
『2005年光化学討論会』、1D03、福岡、2005年9月
(1) 過渡回折格子法で見たPhototropin-LOV2ドメイン周りの光反応構造変化ダイナミ クス
『2004年光化学討論会』、1P097、筑波、2004年11月