研究概要
原子・電子・イオン・スピンの自由度を駆使した
新規な有機-無機物質の創製
① 次元交差領域における新奇な電子・イオン・スピン量子相の創成
21世紀になり、生体機能にみられるような柔軟性と多様性を持った新しい分子素子の出現がますます期待されている。 その実現に向けての基本的な構想はいまだ模索の段階にあるが、当研究室では、量子力学的な電子相(超伝導相、強磁性相、強誘電相、金属相、絶縁体相など)と イオン相(特にプロトンによる超イオン伝導相、トンネリング現象、量子常誘電相)の自在構築・制御を目指している。 金属イオンの電子状態の多様性と有機配位子の多様な設計性をうまく組み合わせて、「特異な結晶構造・電子構造」をもつ新物質を創製し、 「量子サイズ効果」、「非線形電気伝導」、「非線形光学効果」、「誘電応答」、「各種揺らぎ効果」に基づく新規機能性や物性の発現を目指し、 生体機能に近い「分子素子」の実現に向けた基盤の確立を目標にしている。研究対象は、無機物質や有機物質だけに囚われず、固体化学、錯体化学、分子科学の分野を背景として、 次元交差領域における(図1)、低次元強相関電子系、強い負U相互作用を有する混合原子価物質、水素結合系電荷移動錯体、電気伝導性配位高分子、有機超伝導体、有機スピン液体などである。
② プロトエレクトロニクスの確立
固体プロトニクス(solid-state protonics)とは、固体中の水素を自在に操る総合的な科学技術と定義される。 固体中の電子を操る科学技術であるエレクトロニクスは、半導体技術に見られるように、ほぼ確立されており、電子を留めたり動かしたりと、 絶縁体から半導体、金属、超伝導に至るまでほぼ自在制御が可能になっている。他方、固体中の水素を自在に制御することは未達であり、 学術分野としての固体プロトニクスの確立は21世紀の課題である。水素は最も軽く量子波動性を有することから、 電子の自由度(電子・正孔・ポーラロン・バイポーラロン・電子スピンなど)に加えて、水素の自由度(プロトン・プロチウム・ヒドリド・核スピンなど)が利用できれば、 より自由度に富み柔軟性のある新しい融合技術「プロトエレクトロニクス」が誕生することになる。水素は1つの陽子と1つの電子から構成されており、 全元素中で最も単純で軽い元素である。水素には電子が1つしかなく、電子間反発効果などの電子相関や多体問題は無視できる。 しかしながら、電子に比べて遍歴性に乏しいことに加えて、電気陰性度が比較的大きく1s電子が核に比較的強く束縛されていることから、 水素を固体中で自由に操ることが難しい。しかしながら、水素が中程度の電気陰性度を有するために−1から+1の連続電荷を取ることが出来ることに着目すると、 電子系や格子系の自由度と結合させることによって、水素の制御が可能になる(図2)。すなわち、共有結合やイオン結合の強弱によって、 水素をヒドリドイオン(H−)、プロチウム(H•)、プロトン(H+)等に自在変化させることができる。 相手の電子供与・受容性に応じて水素は電荷状態を自在変化させることができ、電子系が柔らかければ水素を扱いやすくなる。 当研究室では、無機物質や有機物質だけに囚われず、固体物性化学、錯体化学、分子科学の分野を背景として、 スピン・電荷・格子強結合に基づく多彩な電子相転移、電子・プロトン結合による量子相転移、配位高分子における超プロトン伝導性、混合伝導性(電子・プロトン)、 量子効果に基づく特性、プロトンビーム照射による物性変換など、電子と水素が織りなす新物性・新機能を示す有機・無機複合物質系の創製を行っている。
③ 多元素ナノ合金による元素戦略と
材料創製インフォマティクス/HTSによる未踏物質探索
世の中には、水と油の関係のように、どう工夫しても混ざらない組み合わせがある。例えば鉄と銅は原子レベルでは混じり合わない元素同士である。 実は社会で使用されている合金触媒の大部分は混じり合わない元素同士で構成されており、異なる金属元素間の相乗効果を最大限には引き出していない。 安定な金属元素は50種程度あるため、その組み合わせは2元系合金で1,200程度存在する。 その内任意の割合で原子レベルで混ぜられるのは(全率固溶合金)3割以下であり、実は7割以上の合金の組み合わせを人類は未だ活用出来ていないことになる。 当研究室では、水と油の関係にある金属元素同士を原子レベルで混ぜ合わせ、新しい物質をつくり出す研究を推進している。 その研究戦略には、構成元素が原子レベルでランダムに一様に混じりあう合金(固溶合金)では、 その組成比により連続的に電子状態、つまり、機能・物性を連続的に制御することが可能なことがあげられる。 そのため、あらゆる元素を自在に混合して操る技術を構築できれば、目的の元素を他の元素の組み合わせで既存の元素を凌駕する新しい元素を生み出すことが可能となる。 最近では、独自に開発した連続フロー型ソルボサーマル非平衡ナノ合金プロセスにより、任意の元素を任意の割合で混ぜる多元素ナノ合金(図3)の開発が実現化されようとしている。 当該科学技術を基盤に、材料創製インフォマティクスとハイスループットスクリーニング(HTS)により、 高性能な水素吸蔵物材料・固体触媒・電子材料・光学材料・磁性材料が開発されている。