リビング重合による多孔性有機高分子ゲルの創製 †物質を分離したり、精製したりするための媒体や、表面に触媒を担持する担体などとして利用される多孔性架橋有機高分子ゲル(ポリマーモノリス)は、通常、任意の割合で混合したモノマーと架橋剤(ここでは、単一の重合官能基を持つ単量体をモノマー、複数持つ単量体を架橋剤と呼ぶ)を、ポロゲンと呼ばれる低分子溶媒中でラジカル重合させ、その後溶媒を除去することにより一般的に作製されています。この方法では、ラジカル重合由来の幅広い分子量分布、架橋点の偏った空間分布により、局所的に重合度が増大した部分が溶媒から核生成的に析出し、析出した粒子状の重合体がランダムに凝集することによって粒子間にマイクロメートルオーダーの「隙間」が偶発的に形成します(上のルート)。得られる細孔構造は、「カリフラワー型」構造と呼ばれ、その細孔径分布は幅広く、細孔径と細孔容積を独立に制御できないなど、細孔特性のきめ細かい設計は難しいことが知られています。これに対し、モノマー、架橋剤、良溶媒からなる溶液に、リビングラジカル重合を適用すると、分子量分布と架橋点の空間分布が均一な三次元架橋構造をもつ化学ゲル、すなわち無孔質の透明ゲルが得られます。私たちの研究グループでは、このような重合系中にあらかじめ別の非反応性鎖状高分子を添加しておくと、モノマー・架橋剤の重合度増加に伴い、鎖状高分子との相互溶解性が低下するため、スピノーダル分解による相分離を誘起することが明らかとなっています(下のルート)。これにより重合溶液は、重合過程にあるモノマー・架橋剤に富むゲル相と鎖状高分子に富む流動相に分離し、この過渡的構造をゲル化によって凍結することによって、直径数マイクロメートル程度のマクロ孔を持つ多孔体が得られます。 上半分に示したSEM写真は、リビングラジカル重合の一種である、ニトロキシドを介したラジカル重合(Nitroxide-mediated radical polymerization、通称NMP)により、ジビニルベンゼンのみを重合して得られた多孔質架橋高分子ゲル(厳密には、乾燥させてあるので"ゲル"ではなく"ネットワーク"と呼ぶべきかもしれません)です。スピノーダル分解に由来するこの多孔構造は、連続したゲル骨格とマクロ孔が三次元的に絡み合った共連続構造を示すことが特徴的であり、細孔径と細孔容積を独立に制御できるなど、これまでのポリマーモノリスよりも優れた細孔特性を持つことが示されました。出発組成を適切に変化させることで、細孔容積を保持したまま細孔径のみを、あるいは細孔径を保持したまま細孔容積のみを変化させることができることも示されました(左下の水銀圧入法による測定結果)。 The detailed review in English can be found in Kanamori's personal website (here). by Kazuyoshi Kanamori
論文 †
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