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サーモポロメトリーによる多孔質物質の細孔特性評価

 私たちの研究グループは色々な多孔質物質を作製していますが、一方でそれらが持つ物性、特に細孔分布の測定法の研究にも力を注いでいます。細孔分布測定法には、電子顕微鏡やX線回折などを利用した直接法と、液体圧入法やガス吸着法などを利用した間接法の二種類があります。近年、直接法がシンクロトロン放射光を利用した"in-situ"な分析に発展してきたように、間接法も従来の測定法では分析できなかった、特殊な状態における物質の特性を明らかにする方向に進んでいます。私たちは、湿潤状態における多孔質物質の分析を可能にするサーモポロメトリーという手法に着目し、その精度の向上や有用な応用についての研究を行っています。
 メソスケール(2-50 nm)の細孔内に拘束された水は拘束されていない水に比べて固液転移温度が降下します。その度合いは拘束が強くなるほど、すなわち細孔サイズが小さくなるほど大きくなります。このことを実際の測定例で紹介しながら、サーモポロメトリーの基本的な概念について説明します。

サーモポロメトリー

 上図は、メソポーラスシリカ(MCM-41)を水に浸し、温度を零度以下に下げ、再び零度以上に戻したときの熱量変化を表しています。温度を下げていくと、まずメソ孔に拘束されていない、物質表面やマクロ孔中の水(バルク水)が凝固します。バルク水の凝固は過冷却の影響を受けるため、その転移温度は簡単には制御できません。温度をさらに下げていくと、メソ孔中の水(細孔水)が凝固します。1つの多孔質物質中にはサイズの異なる細孔が多数存在し、凝固はサイズの大きい細孔から順々に起こります。細孔水の凝固ピークはこれら全部の細孔からの凝固エネルギーへの寄与を反映しており、ピークの始点や頂点、終点だけでなくピーク全体が意味を持っています。細孔水のピークは細孔サイズの分布範囲が広いほどブロードになり、また複数の細孔分布を持つサンプルの場合、その数に応じて複数のピークが表れることになります。折り返し温度を上げていくと、まず細孔水が融解し、次いでバルク水が融解します。細孔水の凝固温度と融解温度は通常一致しません。これは両者の転移メカニズムの違いに因るものであり、この現象は細孔水の融解・凝固ヒステリシスと呼ばれています。サーモポロメトリーは、細孔水の凝固、融解ピークとバルク水の融解ピークから細孔構造を評価します。

実験の様子

 多孔性物質は乾燥・熱処理したものを利用することが多いですが、触媒担体や濃縮チップ担体などに、湿潤試料のまま直接利用される場合を想定したとき、サーモポロメトリーが大きな意味を持ってくると考えています。

by Etsuji Fukui

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Last-modified: 2010-02-10 (水) 11:43:34 (5208d)