研究内容/ Research

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有機化学に革命をもたらす斬新な反応を求めて

この世に何千万種類とある有機化合物は有機反応によって合成されている。有機反応がなければ有機化学という学問は成立しない。我々は、斬新な有機反応の開発を通じて有機化学に革命をもたらすべく、「分子との対話」を楽しんでいる。対話によりスムーズに研究が進み、有用な反応を開発できることもある。一方で思いがけない結果や発見を分子から教えてもらい、そこから真に斬新な反応が導きだされることも多い。これが有機反応化学の醍醐味でもある。

深く、広く有機化学を楽しむ

本研究室は、主に遷移金属を触媒とする斬新な有機反応やヘテロ原子の特性を活かした新反応の開発を手がけている。分子変換および反応機構の革新性を追求した理学的要素の強い研究である。計算化学者との連携も密にとり、有機反応の要である反応機構の解明にも力を注いでいる。一方で、有機化学という学問の特性上、生物活性物質や有機エレクトロニクス材料の合成など他分野への波及効果を意識した展開も自然発生的に行っている。グラフェンをはじめとする原子層の科学にも有機化学的アプローチを図り、物理学者との共同研究も進めている。有機化学の可能性は無限である。

研究例1:硫黄を基盤とする有機合成

硫黄は生体に必須の元素であり、生物活性や光・電気特性発現の源として有機化学で重要な地位を占めている。我々は「有機硫黄化合物の新規合成法」と「硫黄化合物の新規触媒的変換」を両輪として、酸素やハロゲンを汎用する従来の有機合成では達成できない「硫黄の特性を活かした有機合成」の確立を目指している。例えば、フェノールとビニルスルホキシドから一段階でベンゾフランを構築する我々独自の手法は、抗腫瘍活性をもつEupomatenoid類や有機EL用青色発光材料の迅速多様性指向合成に利用できる。

研究例2:芳香環メタモルフォシス

ベンゼンをはじめとする芳香環は安定であり、「一度作ったら壊さない、壊れない」が有機化学の常識である。我々は芳香環を一部壊し、再構築する「芳香環メタモルフォシス」を有機合成の新規合成戦略として確立するべく研究を行っている。例えば、新規触媒反応を開発することで、ジベンゾチオフェンからトリフェニレンへの芳香環メタモルフォシスに成功した。ナノサイズのグラフェン様巨大π電子系分子の創出への応用も目指している。

研究例3:構造的特徴に立脚したヘテロ原子反応剤の反応性制御

有機分子に組み込まれたヘテロ原子は、結合状態や立体環境、酸化度に応じて多彩な性質を示す。我々は、実験と量子化学計算を組み合わせた精密な分子設計に基づき、望みの性質・反応性を持った新規ヘテロ原子反応剤を探求している。例えば、温和な条件下での触媒的シリル化に有用なジシラン類や、多段階合成への適用を指向した環状シリル基を報告している。

研究例4:電子移動を駆使した有機合成

アルカリ金属を用いた不飽和炭化水素の還元は、有機合成における重要な手法であるものの、その分子変換は主として水素化に限定されていた。我々は、適切な求電子剤の選択により不飽和結合への電子注入を制御することで、不飽和化合物に多様な官能基を一挙に導入する手法を開発している。例えば、単体アルカリ金属とアルコキシホウ素求電子剤を用いることで、アルケン・アルキン類の還元的多重ホウ素化を実現した。さらに、マイクロフローリアクターなどを駆使した電子注入制御法の創出や、X線結晶構造解析と量子化学計算を活用した高反応性アニオン中間体の性質解明にも取り組んでいる。